ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2008年04月12日
 浩行が逝き、吉村のおっちゃんが逝く。『本気!』シリーズ序盤でもっとも泣けるエピソードが、この文庫版3巻には収められている。さらに、ここで描かれているテーマは、その後の立原あゆみの諸作に偏在することとなる、という意味で重要性を持ち、それはつまり、家族に捨てられた人間が救いを得ることができるのか、ということであり、家族を捨てた人間が赦しを得ることができるのか、ということであって、正直なところ展開としたらややぎこちなくありながら、しかし、そうまでして浩行の死と吉村の死をワン・セットとしなければならなかった理由も、おそらく、そこにあるのだろう。短いスパンのなかで、二人の死体を、本気が抱きかかえ、泣く、ほぼ相似形であるようなシーンが、反復される、このことの価値は、あんがい、おおきい。浩行が火葬されるときの、本気の〈浩行くん 君は…女抱きましたか…おっぱいにうずまってねむりましたか〉というモノローグと、浩行の遺骨を彼を見放したはずの母親が引きとる場面の、本気の〈浩行くん…君は今…おふくろの胸ン中です……かあちゃんの胸ン中です〉というモノローグ、そして浩行の仇をとると決意し、ひそかに久美子に別れを告げている、本気の〈抱きしめたかった……これが最後かもしれんけん……抱きしめたかった〉というモノローグ、これらによって重点的に繰り返されているのは、人が人をその胸に抱く、そういった行為が持ちうる可能性にほかならない。抱きしめること、抱きしめられることが、救いや赦しの言い換えとなり、示されているのである。もしかすると浩行や吉村の最期は犬死ににも思える。だが、彼らの死体が本気に抱きかかえられることで、犬死にであるような最期に十分な報いが加えられている。浩行の場合とは違い、吉村の遺骨は、家族に受け取られることを拒否されてしまうけれど、たぶん吉村はあの世でそれを呪いはしない。彼の本望は、遺書にあるとおりのかたちで達成させられており、そこに書かれている想いは、宛てられた本気に受け取られている。そうして遺骨は、人生の最後になって誰よりも信じることのできた本気に抱きかかえられ、墓へと入る。結果だけとれば、浩行も吉村も、たとえ一歩遅れた状態であろうとも、自分たちの願いを託した相手、本気に抱かれることで、救いや赦しを手に入れている。この事実こそが、読み手に感動をもたらす。反面、本気はといえば、先ほども引いた〈抱きしめたかった……これが最後かもしれんけん……抱きしめたかった〉というモノローグのある場面で、最愛の人である久美子を、その胸に引き寄せることを、つまり救いや赦しを断念している。久美子が立ち去ったあとの、本気が自分で自分の体を抱きしめているようなカットは、象徴的ですらある。以前にも述べたが、本気は、これ以降、誰ともセックス(性交)をしないようになる。自らを慰撫すべく、誰かを抱いたりしない。掲載が少年誌だったからというのではない。じっさい、この文庫版3巻だけでも、性風俗のサービスが登場し、女性が強姦されるシーンすら描かれている。だから理由はもっと根源的なものに違いなく、ひとつにはもちろん、久美子とのピュアラブルな関係を表現するためなのだろう、が、もうひとつ、本気の救いや赦しを拒む態度の表現になっているのだろうことは、この先のストーリーを読み進めるうえで、絶対に注意しておきたい。最愛の人を抱きしめるかわり、莫大な喪失感を抱きかかえることの繰り返しが、あれだけとがっていた本気の、角をまるく、やがて高僧を思わせる悟りの境地へと導いてゆく。ちなみに、(ことによると続編が描かれるかもしれないという可能性は捨てきれない留保つきだけれども)完結編にあたる『本気!サンダーナ』は、浩行や吉村を回想する本気の背中がとある女性に抱きしめられる場面で、終わりを迎えている。

 さて。文庫版3巻において、もう一点、重要な契機を挙げるとしたら、それは『本気!』シリーズ全編を通じ、本気の片腕として活躍することになる次郎が、ついに登場することである。次郎が担っている役割はいったい何か。このことを考え出すと、さらに文章が長くなってしまうので、べつの機会にゆずるが、ひとまず、読み書きもまともに習ってこず、金銭の扱いも適当で、自動車の運転さえ出来ない、ぶっちゃけ、カリスマだけしか取り柄のない本気を、実務の面で補うための機能だといえる。しかし当然、物語やテーマのレベルから見れば、それだけの存在に止まらない。じじつ、ある程度までストーリーが運んでいけば、次郎以外の人物が本気をサポートする機会が多くなる。だが、彼らの誰も、本気とのあいだに、次郎のような、関係は結びえない。次郎に先んじて、本気についている矢印や新二ですら、だ。では、次郎のような、とは、はたしてどういうふうなものを指すのか。それはまた、いずれ。

 1・2巻について→こちら

・その他立原あゆみに関する文章
 『仁義S』
  6巻について→こちら
  5巻について→こちら
  4巻について→こちら 
  3巻について→こちら
 『恋愛』1巻について→こちら
 『極道の食卓』
  4巻について→こちら
  3巻について→こちら
  2巻について→こちら
  1巻について→こちら
 『ポリ公』2巻について→こちら
 『月の教室』について→こちら
 『喰人』1巻について→こちら
posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(0) | マンガ(08年)
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