ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2008年04月06日
 女神の鬼 9 (9) (ヤングマガジンコミックス)

 田中宏の『女神の鬼』、9巻の内容はとにかく、血が騒ぐ、の一言に終始する。それというのはもちろん、広島中のチームが一点に終結し、まさしくバトル・ロイヤル(バトルロワイヤル)的な様相を見せはじめる、そのようなストーリー展開の熾烈さのためであるのだけれど、他方、作画のレベルでも、さまざまな手法を用い、ダイナミックな表現が追求されている。なかでもとくに186ページの大ゴマとその前後数ページに注目したい。たとえば186ページの、1ページを丸ごと使って描かれるカットは、ふつう、鉄パイプで殴られたアキラが地面に転がる、その姿だけがあればよい、いや、その姿だけであったほうが、ふだん我々が見慣れ、親しんだ構図であるがゆえに、効果的であったふうに思う。だがそこに、鉄パイプを握り、殴るケンエーの腕が入ってきており、描き込み具合からするに、作者の意識はそちらのほうを大切にしていることが、うかがえる。現在の一般的なマンガの手法からしたら、このシーンは、いっけん変だ。しかし、すごく目を引くのである。どうしてだろう。かつて、いしかわじゅんが『漫画の時間』において、池上遼一と大友克洋のマンガでいかに、殴る、殴られる、の瞬間が表されているのか、を対比して、そのインパクトがどう読み手に受けとられるかを論じたのを参考にすれば、ここで田中が試みているのは、池上と大友の、つまり旧いと新しいに言い換えられる手法のどちらにも近しく、またそうであるがために、どちらとも異なったものだといえる。大友のように、殴った瞬間のインパクトを省略しながら、池上のように、インパクトそのものと前後の文脈を執拗に説明する。もしかすると、これはヤンキー・マンガのみならず、暴力を扱ったマンガ全般の現代的なパターンからは、完全に逸脱しているので、最初は違和感を覚えるのだが、そこへ至るまでのコマ運びとそこから先のコマ運びの連続性によって、すぐに新鮮な迫力へと訂正される。殴られたアキラのそばにショーチャン(障一)が転がって来、鉄パイプを構えるケンエーのワキにショーチャンを倒したのだろうコンチャン(近藤)が寄り、並び立つ、こうした盛り上がりのつくりは、なかなか他に類を見ることのできない、たいへん非凡なテクニカル上の結果にほかならない。さて。『女神の鬼』の物語全体のテーマを考えるうえで、この巻における最大のトピックとすべきは、タニケンとコンチャンの、次のようなやりとりではないか、という気がする。小学生時代は、ギッチョ(主人公の佐川義)らと行動をともにしていたにもかかわらず、今はケンエーに付き従い、敵対関係にあるコンチャンに向かい、臆病な性格のタニケンが意を決して〈…な…………なんで‥‥なんでこんなにみんなケンカせんにゃ〜〜いけんのん‥‥なんか……ボクから見たら みんな同じよーな人らばっかしじゃし‥‥仲良くすれば‥‥すっごい仲良しになれそーなのに……‥なんでそんなに傷つけ合わんにゃ〜〜いけんのん…しかも‥‥コージくんとコンチャンはちっちゃい頃からずっと‥‥友だちじゃったじゃんかぁあッ!! なんでコージくんにこんなヒドイコトできるん‥……!? なんでコンチャンそんなんなったん‥‥!?〉と問いかける、これに対して、コンチャンは〈教えたらぁや‥…〉と言う。〈なんでワシらが戦わんにゃあいけんか‥‥それはのォ…同じよーなヤツらじゃけぇこそなんじゃ…みぃんな王様になりたいんじゃ…!! それでも王様には一人しかなれん…なれんヤツはどーやって自分を納得させるかを日々考えるんじゃ‥‥2番手ならまだ次が狙える位置じゃけぇえーかとか…自分より歳が上の王なら次の世代はワシが…とかのォ‥‥わかるか? タニケン…ワシはずっと あんならがジャマじゃった…………ギッチョとコージがおる限り…ワシは2番手にすらなれんのじゃけぇのォッ…!!〉と、このセリフは、かなり悲痛である。そして悲痛さは、ある種の人間たちを前にしたとき、自分が弱者ないし敗者の立場にならざるをえない、そのことの自覚からやって来ている。野心、そうでなければ関係性への脅えは、場合によって、そのような屈折を心にもたらす。だが、それでもなお〈イヤじゃ………!! それでもボクは友だちを‥‥誰も傷つけと――ないよぉッ…!!〉と反論するタニケンの言葉もまた、悲痛であり、印象的である。田中の過去作であり、『女神の鬼』に連なるサーガ『BADBOYS』と『グレアー』を読んだことのある者ならば、ここで展開される論理が、あの、すべての凶事の根源だといえる松尾安三と新太郎の、純粋なあまり歪んだ友情の反響であることに気づくだろう。人は、一人では生きていけず、しかし、一人になるのをおそれ、足掻いた結果、孤独となり、鬼となることがある。それを因果というのであれば、因果はめぐり、めぐる。五代目ビイストのトップ内海と廣島連合のトップ五島を陥れ、ぶつけ、自らが廣島連合の頭になろうとする東の邪悪さが、あらたな悲劇を予感させる。

 8巻について→こちら
 7巻について→こちら
 6巻について→こちら
 5巻について→こちら
 4巻について→こちら
 1巻と2巻について→こちら
posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(0) | マンガ(08年)
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