ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2005年10月27日
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 アフター・モラトリアムを意識したうえで、いかにしてその世界観を成り立たせるか、それこそが今日のヤンキー・マンガにおける、もっとも大きな課題である。というのは、繰り返し何度も言ってきたことであるが、やっぱり山本隆一郎『GOLD』がひとつのロール・モデルかなあ。コメディではなくて、シリアスな路線を追求するのであれば、この作品を踏まえていかないと、駄目な気がする。それぐらい良く出来ている。

 いよいよクライマックスが間近だからなのだろう、13巻と14巻の2冊が同時刊行となったわけであるけれども、いやあ、読み足りない。なんておもしろいんだ。燃える。

 正直なことをいえば、スバルとコータ、スーという、物語当初において中軸であった3者の友情が、いったん決裂した際、また内容の進行が複雑になっていくにつれ、ちょっとちょっと焦点がブレてきたんじゃない? これ、どうやって収束させるのだろう? と、疑問形な心持ちがすこし前まではあり、やや盛り下がり気味であったのだが、しかし、なるほど、作者がどこまで先の展開を用意していたのかはわからないけれども、四方八方に伸び、こんがらがった糸の数々が、ここにきてようやく一本の線として交わった。スバル、コータ、スー、3人の繋がり、つまり友情の深さが再確認される13巻のラストは、かなりの泣き所である。登場人物の台詞を借りれば、〈いや、おれがオッサンやから そう感じるのかな おまえら今 ピッカピカに眩しく光ってるぜ〉といった具合で、まさにGOLDというタイトルの示すべき意味が、明瞭となっている。

 振り返れば、3人を分け隔てた要因というのは、卒業後の進路、将来の夢に関わる問題であった。13巻で、これまで先々のことなど考えず、つねに「いまここ」だけを重視して突っ張ってきたスバルは、プロの格闘家になる旨の発言を行う。この決断は、3人のなかでもっとも遅い、遅れたものである。一方、いち早く未来を見据え踏み切りだしたのはスーであった。彼は物語の、最初のほうで、すでにミュージシャンを目指すことを宣言している。ここで重要なのは、そうした2人の間で、家庭の事情によって「いまここ」にもいられず、かといって「ここではないどこか」さえ見えなかったコータが、結果として、高校をドロップ・アウトし、ヤクザになってしまったことである。

 格闘家、ミュージシャン、ヤクザというのはどれも、いうなれば、ヤンキー・マンガ表現における、卒業後の進路の定番である。しかし前2者の職種においては、一流になるためには才能と、そして大量のディシプリンが必要とされるのに対して、ヤクザの場合、どうもそういったイメージは沸かない。いや、ヤクザになったコータは、上に立つ人間から、ケンカの強さと非人情の精神を要求されるわけだが、これを、前者を才能、後者をディシプリンと捉え直したとして、突き詰めれば、アウトサイドでしか生きられなくなってしまう。すると、それを幸福と呼べるかどうかの疑問が浮上する、あるいは残る。

 そこで一枚絡んでくるのが、スバルにとって重要な位置な、実の兄でもある十雲の存在なのだ。十雲は、その不幸な生い立ちゆえに、ヤクザとして権力の頂点を目指す。〈金さえあれば叶わない夢なんてないんや 権力があればなんだって手に入るんやぜ〉と、彼はいう。幼い頃、スバルに語った希望の輝きを、類いまれな知性と殺伐とした暴力という形で、その掌中に収めようとするのである。彼を動かすのは、ただただ弟であるスバルへの掛け値のない愛情なのであって、このへんが悲しい。そうして彼が小高い丘から見下ろす街の光、それもまたGOLDというタイトルにかかったものであるのだろう。しかし、そのような世界をサヴァイブすることは、結局のところ、彼の孤独をより深めるだけなのであった。

 たとえば田中宏は『莫逆家族』の最終巻で、金や権力よりも正義や仁義などを重んじる、そういう近代的なヤクザの終焉を描いている。同様に、この『GOLD』において、十雲が生きるのも、ほんとうの意味で仁義のない、利権をめぐる欲望の構造でしかない裏社会である。十雲は人を裏切ることに罪を覚えないが、それは因果律に基づいて、彼へと跳ね返ってくる。これまで順風満帆であった十雲のサクセス・ストーリーは、13巻と14巻で転覆する、窮地に立たされる。死神が彼を誘う。

 ここでもうひとつ重大なポイントを指摘しておかなければならない。十雲によって組織されたティーンエイジ・マフィア「ロットン・アップルズ」の存在である。「ロットン・アップルズ」は十雲を除き、すべて外国人によって構成されている。その人種は様々である。メンバーのひとりがいうように、彼らは〈世の中ってのはとことん不平等につくられている…! だから おれらの様なならず者を集め マフィアの多国籍軍をつくる… そして力でこの日本を乗っ取る… あんたの そんな野望を聞いた時 正直 胸が躍ったよ〉という十雲が説いた夢のために、尽力する。

 だが、けっして一枚岩ではなかった。亀裂が入る。十雲への叛逆が計画される。14巻で繰り広げられるのは、仲間同士の熾烈な殺し合いであった。それを企てたのは、イグナシオという、やはり「ロットン・アップルズ」のメンバーである。彼には、十雲殺しを果たすことで、大規模なヤクザ組織から、その地位への入れ替わりが約束されている。要するに、自分の欲望のために、十雲を切り捨てるのである。ここで興味深いのは、先にもいったように、「ロットン・アップルズ」が、もともとは十雲の夢を実現するために結成されたという事実に他ならない。イグナシオのように十雲に反旗を翻すメンバーがいる一方で、あくまでも十雲に忠実であり続けるメンバーたちがいる。彼らと十雲を繋ぎ止めるのは、敬意に近しい信頼、仲間意識である。要するに、そこでは、金や権力以外の、それこそ仁義に相応する、旧式のヤクザ的な理念が働いているというわけだ。それを実践しているのが、日本人ではなくて、外国人の集まりであるというのが、物語の層をいっそう厚くしている。ちなみにイグナシオは、ハーフであり、半分は日本人である、そのあたりの設定が、いかに現代の日本人が倫理を持ちえていないかという、アイロニーのようにも思える。

 と、長くなったが、『GOLD』というマンガの結着がいかにしてつけられるかといえば、スバルと十雲のタイマンでしかありえないことは、おそらく、すべての読者の予想するところであるけれども、そこまで先読みしても、今後の展開に期待してしまうクオリティが未だ維持されていることに、驚く。絶対に、最後の最後には、最大級の熱い漢(おとこ)泣きが待っている。だって、この時点からしてすでに、涙腺が緩みっぱなしで、視野が曇って前のよく見えない感じなのだ、僕は。

 12巻について→こちら
 11巻について→こちら
 10巻について→こちら
posted by もりた | Comment(1) | TrackBack(0) | マンガ。
この記事へのコメント
いかに現代の日本人が倫理を持ちえていないかという、アイロニーのようにも思える。

とありますが日本人は世界で最も倫理が高い国ですよ
世界でダントツに犯罪が少ないし人権が擁護されてる国です
マスゴミに踊らされない方がいいですよ

じゃなくても国籍や人種で倫理観の有無や優劣を付ける事はこの21世紀の現代においては「差別」と定義されてるのが常識ってものです
お気を付けて下さい
Posted by ろく at 2012年10月20日 05:18
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