ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2008年02月14日
 OUT PITCH 3 (3) (BUNCH COMICS)

 渡辺保裕の『OUT PITCH』は、ジャンル的に見れば、野球マンガ(スポーツ・マンガ)でしかありえない内容なのだけれども、かつて付き合っていた女性が、じつは男性主人公の子供を身籠もっており、その事実を彼女の死後、ある年齢になった子供を託されると同時に知らされる、という点において、意外にも同じく『コミックバンチ』誌の作品である佐原ミズの『マイガール』と共通したドラマを含んでいる。また両者は、子供の母親である女性が、男性個人の将来を優先的に考え、妊娠を秘密にし、別れる、そのようなイントロダクションや、さらにはいかなる展開においても、父親としての自覚ないし責任が子供からの熱烈な好意のあとに遅れてやってくる、そういったベーシックな構造ですら、ことごとく共有している。このことを、育児マンガというジャンルの見方で捉まえ直し、たとえば女性向け雑誌にて発表されている宇仁田ゆみの『うさぎドロップ』と比べてみたならば、体裁上は男性向けである『OUT PITCH』と『マイガール』の物語のなかでは、女や子の登場人物たちは男の登場人物の都合にあわせこしらえれている、とさえいえる。もちろん、これを発表媒体や読者層の性差の問題に還元し、あるいは意見を述べてみることもできる(が、寡聞にしてそれを行っている文章を知らない。まあ劇的に作風の違う『OUT PITCH』はともかく、『うさぎドロップ』と『マイガール』は一定の読み手が被っていそうにもかかわらず)。しかし、ここでの話は、では逆に、そういうふうに整備されている『OUT PITCH』のストーリーが、男性主人公にどのようなテーマを与えているか、つまり東京ヤクルトスワローズへピッチャーとして入団した幸村風児に課せられている試練とはいったどういったものか、で、それはもう、一人前の男になること以外の何事でもなく、そして、一人前の男になるとは、要するに、プロ野球の世界で活躍しうるだけの選手に成長すること、と、単純化されている。この3巻で、ついに一軍の試合でマウンドに立つ風児であったが、しかし好調なピッチングをみせながらも、最大のライバル江神との対決を目前に、ホームランを打たれてしまい、降板させられる。この、今回は叶わなかった、江神との対決が、おそらくは序盤における最大のヤマであろう。阪神タイガースの4番であり、名実ともにトップ・クラスのバッターである江神を、もしも風児が抑えることができたなら、彼の実力もまた一線級であることの、とてもわかりやすい証明となるためである。それにしても、と思うのは、同じスワローズのピッチャー吉岡が、まだ一軍にあがったばかりの風児に〈ったくアマの実績もねーくせに計画性もなくガキだけは作っちまうバカップルが…自覚しろよ今のてめえのポジションを!〉と非難するのは、あんがい重要なモーメントなのではないかな、ということで、なぜならこれに対し、風児が〈オレの背中を子どもが見てるんだ!! 後には引かない!!〉と答える言葉は、最初にいったような、男性主人公に女性や子供の側が尽くす、そうした作品内部のステータスがどうあれば正当化されるかを、はからずも作中人物自身が言い当てているからにほかならない。
posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(0) | マンガ(08年)
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