ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2008年01月28日
 父親を亡くしてから、母親との折り合いが悪くなった少女が、家を飛び出し、従兄の営む雑貨屋「アカンサス」で住み込みのアルバイトをしはじめる。そして彼女は、そこで知り合った陶芸を志す青年に、片想いの気持ちを抱く。山口いづみ『アカンサス』の1巻で描かれるのは、そのようなオーソドックスともいえる構えのストーリーであり、こうして説明してみるかぎりわかりにくいところはなさそうなのだが、しかし、作者が主人公の彩香に何をさせたいのかが、よくわからない。当然のごとく、自立や成長といったところだろうな、との推測はつく。とはいえ、物語のなかで彼女がやっていることは所詮ママゴトの域を出ていないように思われるのである。自分がまだ子供であると自覚しながら、だが子供ではないというふりをしながら、でも周囲のやさしさにはべったりと甘えている、そのような態度に対する否定のモーションが、ほとんど行われていない。もちろん、そのあたりに関しては次巻以降で変化が訪れるに違いない(訪れなかったなら、むしろ、まずい)ので、これは早計にほかならないのだけれども、ちょっと、軸足となる部分が頼りなく、このあとの展開次第では体勢がよれてしまわないか、と、すこし心配になる。一方、併せて収録されている長篇「青く、ふたつ」は、気恥ずかしくなるぐらいにわかりやすいラヴ・ストーリーで、たとえば、バンドでの成功を夢見る青年が東京へ出て行くのにさいして同級生の恋人に別れを告げる、そうした筋立ての陳腐さを、げえ、と思う向きもあるだろうが、個人的には、好きである。作品は、おおまかに「青く、ふたつ―十八歳の唄―」と「青く、ふたつ―二十三歳の唄―」のふたつのパートに分かれており、前者では女性の、つまり十八歳だった頃のヒロインの視点で、好きであるからこそ別れなければならなかった恋人のことが、後者ではバンド・マンの、つまり二十三歳になった青年の視点で、かつて好き合っていながらも別れた恋人との再会が、語られる。ものすごく簡単にいってしまうと、いくえみ綾の影響を使って、単層的な今ふうのメロドラマをやっているような内容で、クライマックスにおける悲劇の利用は、見え透いたアイディアではあるけれど、そこまでに積み重ねられる叙情の、洗練のされてなさが、翻って、印象の濃い痛みをつくる。

 『キリン』について→こちら
 『恋愛幸福論』について→こちら
 『HAPPY DAYS』と『ビターチョコレイト』について→こちら
 『ロマンチストベイビー』について→こちら
posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(0) | マンガ(08年)
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