ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2005年10月12日
 ロマンチストベイビー

 山口いづみという、この作者のことを知らなかった僕は、『ロマンチストベイビー』というその題名を本屋で見かけ、どうも気になる感じではあったのだが、いかんせんその表紙の絵が歪み調子だったので、なかなか手にする気が起らなかったのだけれども、じっさいに読んでみると、いや、切なさの指数がひじょうに高めで、うわーん、ってなった。感心した。作風としては、ジョージ朝倉あたりに近いかもしれない。ぜんぶで5編収められているが、とくにブリリアントであったのは「僕らは同じ空の下」というエピソードである。主人公である廣瀬は、以前付き合っていた年上の女性にひどく傷つけられたことをきっかけに、恋愛に期待することをやめてしまった。〈恋愛なんて相手に気に入られよーとがんばってる時点で終わりなんだよ くだらねえ〉。どれだけ必死になったって、人は裏切られるときには裏切られるのである。そんな彼であったけれども、たまたま転校生の清水が花壇に向かって話しかけるのに遭遇して以来、〈変な女〉と思いながらも、彼女のことが気になって仕方がない。しかし清水は、女癖が悪いと噂されるクラスメイトの松谷と付き合いはじめてしまったのだった。ここにはひとつ、「ほんとうのじぶん」という、この時代には深刻な問題があって、それを作者は、ファンタジックな恋愛ものとして、うまくエンターテイメント化している。廣瀬は、松谷にいいように扱われている清水を見て、かつて報われなかった自分の想いを重ねる。〈清水は 清水なりに いい所はあるよ 花が好きで 素直で 一途で ただちょっとがんばり過ぎただけで そのままでも好きになってくれる奴はいるよ〉。相手に合わせようとしたり、がんばったりすることは、けっして無駄じゃない。ただ想いが届かなかったとして、寂しすぎるあまり、あのとき「ほんとうのじぶん」なんてどこにもいなかったと言いたくなることもある。でも、それは本当じゃない。「ほんとうのじぶん」が愛されなかったわけでも、損なわれたわけでもない。ただ痛がる感情のせいで、見えなくなるものがあるだけのことで、だいじょうぶ、いつかはちゃんと視界は晴れ渡ってくれる。だって、そうだろう、いつだって君は「ほんとうのじぶん」であるのだから。そのような前向きのメッセージとして物語は動いているみたいだ。淡々として穏やかな日常に帰結する、流れるようなラスト数ページが、ひどく胸に沁みる。
posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(0) | マンガ。
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