ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2007年12月30日
 タブロウ・ゲート 1 (1) (プリンセスコミックス)

 近場の本屋でまったく見つけられなかったのは、それだけ売れているということか、というのではおそらくなくて、まあ、出てる部数が沢山ではないからなのだろうけれど、いや、しかし、鈴木理華の『タブロウ・ゲート』は、この1巻の段階で、とてもおもしろく、たいへん心強い内容を備えたマンガであることが伝わってくる。べつの出版社からリリースされていた同名作のリメイクにあたるが、そういったことは知らずともよく、むしろ、孤独な少年が特殊なガジェットから召還される異能者たちとともに非日常的な諍いに巻き込まれる、そのような今日にありふれたパターンの内で、けして類型的ではない特徴を持っている点に注目されたい。そしてそれは、たとえば、今年(07年)終了した『金色のガッシュ』や『ローゼンメイデン』といったマンガ群、あるいは終了間近のテレビ・ドラマ『仮面ライダー電王』などの、つまり(作風はともかく)設定だけ見れば近似ともとれるサブ・カルチャーの、その08年以降のスタンスを占っているとさえ思われもし、オビで、あの大河内一楼が「もしアニメ化決定したらボクに書かせてください」といっているのは、当然リップ・サービスだとしても、しかし意外と真に受けてしまっても構わないんじゃないかしら、という気にさせられる。唯一の肉親であるイギリスの祖父から逃れるようにして、誰も知り合いのいない盾濱町で一人暮らしをはじめたサツキは、ある日、荷物のなかに自分の持ち物ではない画集を見つける。不思議に思い、手にとった瞬間、そこからは幾重もの光が溢れ、宙へと散ってゆく。強力な力を持つタロット絵の化身「タブロウ」が、彼らを封じる「タブレット」から解き放たれたのである。「タブレット」の管理人を名乗る少女レディに責任を問われるサツキは、「タブロウ」を回収するためには彼らから主(マスター)として認められる必要があることを知り、まずは太陽(THE SUN)のページの住人アレイスターを使い、月(THE MOON)の住人エリファスと契約を交わすことに成功するのだった。ねえ、そういったストーリー自体はアリガチだといえるでしょう。だが、それのみでは十分に取り出せないところに、作品の魅力は宿されている。おおきくいえば、ふたつのことが挙げられる。ひとつには「タブロウ」たちは〈固定の人格というものをもちあわせて〉はおらず、その〈人格は主の“心象力”に大きく影響されて現れる〉ということであり、「心象力」とは、作中で〈イメージの力〉要するに〈豊かな感受性と想像力〉であると説明されているのだけれども、サツキの場合、ポジティヴともとれる人格が「タブロウ」たちには与えられる。これが、サツキの欠損を埋めるものなのか、または鏡面に映ったサツキ自身であるのか、そのことは、のちのち主要なテーマへと集約されていくに違いないのだが、ここでもうひとつの特徴を、あわせて述べるのであれば、サツキの人物像が、あくまでも陰気であるふうに造形されていることになる。こういった陰気な、さらには文系体質の主人公というのは、もちろん何かしらかのトラウマ持ちであることも込みで、90年代以降における定型に他ならない。もしくは、そこに付きまとう、逃げては駄目だ、というメッセージが必ずしも前向きな行動を促さないところに、90年代のサブ・カルチャーを象徴するポイントがあったわけで、多少露悪的にいえば、内向的な少年の性根はやさしい、というのではなくて、根暗な坊ちゃんは心底腐っていることが、最大のトピックであったのに対し、『タブロウ・ゲート』は、そのような分岐をふたたび、内向的な少年のやさしい姿へと、切り返す。繰り返しになるが、サツキの「心象力」が「タブロウ」たちに与えるのは、きわめてポジティヴであるような人格である。そして、それを手がかりに、彼らが築き上げるのは、疑似家族とでもいうべき信頼関係なのだが、その関係性は、あくまでもサツキの理想を叶えるべくして成り立っている。ここで肝要なのは、サツキが、そのような恩恵に無自覚ではなく、また一方的に甘んじるのでもなく、かつ感謝の言葉を述べるだけの素直さを持ち合わせていることだろう。ひねくれた坊ちゃんを主人公にしたていの表現に顕著な、コールするがレスポンスを返されない、逆にコールされるがレスポンスを返さない、そうした対他関係の有り様は、いっけん切実に見えながら、じつは頽廃に過ぎず、すげない。だが、ここではコールとレスポンスの絶え間ない応酬が、疎外感と、そこからの回復をつくり、複雑なエモーションを活性化させる。とくに秀逸なのは、1巻における最後のエピソード(episode III)で、それまでに積み重ねてきた親愛が、しかし、お互いがお互いを想うあまり、まったく逆の効果へと裏返る。どれだけ安心できる間柄でも、寂しい、たったそれだけのことを口にするのがいかに困難かを、今後のストーリーに関心を向けざるをえない展開の最中に、描く。
posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(0) | マンガ(07年)
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