ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2005年09月13日
 LOVE

 正直なところ、読みながら、途中で、飽きが回ってきたのであった。いや、相変わらず巧みなストーリー・テリングだ、と感心はするので、それはあくまでも、僕の読み手としての資質であると思う。『ベルカ、吠えないのか?』で冴えわたっていた、この作者、古川日出男独特の、トリッキーな二人称を軸に、話の筋は進行するのだけれども、『ベルカ、吠えないのか?』が、ある一点に向かってすべてが収束する物語であったとしたら、この『LOVE』の場合、ある一点から全方位に向かって拡散してゆく物語であるため、そういった二人称語りが、複数回繰り返されても、カタルシスは積み上がらず、むしろ漠としはじめ、じょじょにパターン化される、すると単調だと感じられるようになってしまう。また作者がどこまで意図しているのかは不明だが、「きみとぼく」風味のミニマムな関係性や、そして世界の裏側で謎の組織が暗躍しているなどといった、じつにライト・ノベル的なマテリアルが、あちこちに散りばめられており、それらもまた曰くありげに見えながら、けっして回収されない、そのせいでダイナミズムが損なわれているようにも思えた。もちろん、そのことは、世界の中心は一点ではない、無数にある、無数にある点々のうちのひとつを、誰もが、固有のものとして認知し、そして生きているのだ、そういう風に平面に拡がる物語を、眺めるのであれば、壮大で広大で感動的なアイロニーだといえる。ただ、僕はそこまで内容にのめり込むことができなかった、残念ながら。それと、どうしても気になるところが、ひとつ。とある場面(P148)で、ある女子小学生と、その親代わりの叔母が、次のようなやりとりをしている。〈それからベックだけは十代のうちから聞いておきなさい。「ベックって……これ? なにか……ヘンテコな音楽」 それがいいのよ(略)人生はヘンテコなの、だから、それがリアリズムなのよ〉と。これはいっけん格好いい、素敵だし、痺れそうだ。しかし、この10代のうちからベックを聴けと諭す叔母自身は、明示されてはいないが、10代の頃にベックを聴いていないはずなのである。作中の条件からは、どのように計算しても、彼女が10代のとき、ベックはまだデビューしていないことになる。それがたまたまロック・ミュージックだから格好はつくが、自分が経験してないことを他人に指示するのは、じっさいどうだろう。もちろん、これがジェフ・ベックであるならば、なんの問題はない。しかし、〈ヘンテコな音楽〉という感想、そして、この本の巻末に付せられているサンクス・リストにベックの「セックス・ロウズ」があるのを見つけるに、やはり、これは、あのベックなのである。つまり、どういうことか。10代の頃にベックを聴いていない人間が、べつの誰かに10代の頃にベックを聴けと薦め、そして、それを用い人生の真を説こうとする、まるで箴言のように、そうした場面の挿入される意味が、僕にはちょっとわからない、すこし胡散くさく感じられるということだ。まあ、それはそれで、こちら読み手の側の問題でしかなく、単純に、そういう大人は嫌だ、相容れねえなあ、っていうだけの話ではある。

 『ベルカ、吠えないのか?』について→こちら
 『gift』について→こちら
 『ボディ・アンド・ソウル』について→こちら


posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(1) | 読書。
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