ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2005年08月19日
 打撃王凛 4 (4)

 昔から熱血スポーツ・マンガは、才能のない、落ちこぼれ、弱小チームが、努力と根性で這い上がっていくというのがストーリーの相場であるが、これ、『打撃王 凜』もそのとおりの内容で、だからまあ、アリガチといえばそうなのだけれども、いやいや、しかし、それでも心は燃えてくるのだろう。エースであったやっちんの故障をきっかけに、メンバーのほとんどが緑北シニアに引き抜かれ、よもや解散という事態に陥った、かつての名門緑南シニアであったが、やっちんのかつての同級生である凜の加入によって、復活の兆しをみせる。転校続きで、まともに野球をしたことのない凜であったが、6年前にやっちんが言った〈俺は日本一の投手になるから、お前は日本一の打者になれよ〉という約束を守るために、バットの素振りだけは毎日欠かすことがなかった。そうして鍛え上げられたスイングは、鋭く、さまざまな逆転劇を呼び寄せる竜巻を起こす。いよいよ開催されたシニア日本一を決める夏季関東連盟大会、その予選に緑南シニアは、9人というギリギリの人数で参加する。1回戦はあやうげなく突破。だが、2回戦の相手は、天才ピッチャー稲葉龍太郎を擁する浜松中央シニアであった。最初にもいったが、このマンガは、努力と根性をモチーフとした作品である。練習の量が天性の実力を圧倒する、というのが基本線となっている。前巻で登場した〈努力する天才〉というキーワードなどは、じつに象徴的だ。そうして物語を進める主人公たちチームが、はじめて出会う本物の天才が、稲葉という選手だろう。どこかクールで、冷めた、チャラいキャラクターは、なるほど、熱血漢である凜とは対照的な存在である。また、野球に取り組むモチベーションの立て方も、たとえば凜が友情や約束などの、ある意味では前時代的なものを基盤にしているのに対して、稲葉の場合、生活は裕福であるが、それに満足できず、自分が代替不可能な唯一な存在であることを実証するためという、じつに今様のものである点も、興味深い。そういったライバル登場的な部分も含め、今回の対決は、おそらく『打撃王 凜』における、ひとつのクライマックスである。というのは、試合はまだ開始されていない段階なので、結果はどうなるか不明ではあるけれども、試合に勝とうが負けようが、天才と呼ぶに相応しい人物が現れてしまえば、それ以降、凡人の努力ははたして天才のする努力に打ち克てるか、といった問題提起が否応なく持ち上がってくる。天才というのは、アキレスと亀のパラドクスでいえば、スタート地点が先にある亀のようなものだ。俊足なアキレスの方を指すのではない。パラドクス上においては、アキレスは亀に、無限に追いつけないことになっている。それはつまり、スタート地点が違うので、凡人は天才に追いつけないという風に解釈できるわけなのだが、もちろん努力は、そういったパラドクスを反故にする可能性を持っている。しかし、ここでもしも、亀がじつは俊足であったとしたならば、言い換えると努力を怠らなかったら、アキレスは永遠に先をゆく亀を追いかけることになってしまう。凡人のする努力の絶対性が揺らぐ。そういった今後の方向性を決定づけるという意味において、浜松中央シニア戦は、ひとつの山場となっている。
posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(0) | マンガ。
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