
このままいけば、まちがいなく所十三の新しい代表作になるだろう、というぐらい、『白亜紀恐竜奇譚 竜の国のユタ』は、おもしろく、架空の世界を舞台にしたファンタジーとしても、十分に設定や細部のつくりがしっかりしており、いま現在、トップ・クラスに入るほどのクオリティだとさえ思うのだけれども、やはり、絵柄や作風に一時代前の印象があるからか、あまり話題になっていない様子なのを、残念に感じる。前巻で、回想編は終わり、この5巻より、物語は現在進行のかたちに戻る。はじめての任務を無事にこなしたユタであったが、雇い主の隊商に騙され、相棒であるパキケファロサウルスのジサマとともに、その身柄を、人身売買(ひとかい)されてしまう。そうして売られていった先は、ナノス(ユタの属する種族)を奴隷とする平原王国(げんこく)である。そこで、ナノスが生き残り、自由になるためには、闘竜場で戦い、死なず、勝ち続けなければならない。むろん、ユタとジサマもその例外ではなく、闘竜士としてのバトルにエントリされることとなる。あくまでもユタ個人の視点で追っていくと、そのようにストーリーはまとめられるのだが、他方にユタの救出へ向かうチームの存在があり、大状況を見れば、五つの王国がそれぞれの思惑のもと、密やかに動きつつある。こうした一連の流れを、あまり散らからせず、手堅くまとめ、たしかに派手さや奇抜さには欠けるが、しかし、着実な安定感をもって読ませている。まあ、展開がシビアなわりにはスリルに乏しく、残酷な描写にそれほどのインパクトがない等々、その安定感こそを怠いとする向きもすくなくはないのかもしれないが、すべての表現が時流に則ったりラディカルであったり必要はないのであって、こういうマンガが一個や二個ぐらい、あってもいい。
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