ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2007年09月18日
 And

 『クロスビート』10月号(先月号になるのかな)のアルバム・レビュー欄にて、石井恵梨子が、ジョナー・マトランガ(JONAH MATRANGA)を指して、天使の歌声、と評していたのだけれども、それには、うんうん、と頷く。ふつう、天使というもの、あるいは天使という語による形容は、イノセントであることをイメージさせるが、当然のごとく、この世のどこにも完全なイノセンスなぞ存在しない、にもかかわらず、たしかにそれを信じさせるような力が、ジョナー・マトランガという人の歌声には、宿っているのである。いや、すくなくとも、三十代も後半のおっさんのヴォーカルが、他の誰よりも何よりも清廉に響くというのは、とてもとても異例なことだ、と思う。そうして、ウェットなアコースティックの調べに重なる〈So Long, bye-bye〉という淋しいフレーズが、なぜか聴き手を淋しくはさせない「SO LONG」によって、個人名義では初となるフル・アルバム『AND(アンド)』は、幕を開ける。元RIVAL SCHOOLSのイアン・ラヴ(とサム・シーグラー)の全面的な協力のもと、つくられたサウンドは、ナイーヴなトーンを基調としたギター・ポップといえなくもないが、しかしナイーヴであることを理由に、エゴをひけらかす質のものではない。むしろ、奏でられ、うたわれるメロディは、自我を背負わざるをえないせいで傷ついた人間の肩に、そっと手を置くかのような、そういうやさしさに満ち、こちらの心をあたたかくする。そのあたたかみを、深い余韻のうちで実感させる音響に関しては、イアン・ラヴの貢献がおおきい。ともすれば、CARDIAやイアン自身のソロ活動において示されていたヴィジョンが、ジョナーの声を得、ここでより鮮明に実現されたとの印象さえ受けるし、だからこそ逆をいえば、ジョナーのこれまでのキャリア(FARやNEW END ORIGINAL、ONELINEDRAWING、GRATITUDE)の、どれとも似て非なる世界観が、ここに確立されている。さらには、そうした結びつき、人と人との相互作用が、この作品を、パーソナルで閉じたものにしない、一種の拡がり、膨らみのあるものにしているのだろう。おだやかなフィーリングを湛えた楽曲が多くを占めるなかにあって、もっとも前面的に躍動感を溢れさす8曲目「NOT ABOUT A GIRL OR A PLACE」のラスト、イアンの弾くエレクトリック・ギターが歪みながら散ってゆき、ジョナーは適当なフレーズをスキャットする。それらは交じりながら、フェイド・アウトする。消える。胸にとどまるのは、青雲にも似た輝きである。いっさいの曇りもなく。

 過去の来日公演(05年12月9日)について→こちら


posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(0) | 音楽(07年)
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