
そもそものイメージからか、バレエを題材にしたマンガには、ハードでストイックな内容のものが多いのだが、そのなかにあって朔田浩美『東京湾岸バレエ団』の、ポップでファニーな路線は、異彩を放つ。幼い頃、義姉に連れられて観た果屋時生の踊りに衝撃を受け、バレエを志すようになった佐藤吾郎は、しかし有名なバレエ団のオーディションで、その憧れの果屋から、不格好な体型を「マグロ」と形容され、さらには不合格となってしまう。落ち込む吾郎であったが、クラシックに不向きならコンテンポラリー(現代バレエ)をやってみないか、との誘いを受け、果屋主宰の「湾岸バレエ団」の一員に加わる。だが、やたらハイ・テンションでテキトーな果屋がつくっただけあり、「湾岸バレエ団」には、一風変わった人材ばかり集まっているのであった。この1巻では、そういった状況設定が為され、これからどう話が転んでいくのか、掴みようがない、その掴みようのなさに、作品の魅力を宿らせている。登場人物たちのやりとりは、とても賑やかだけれど、締めるところは締める。実母に捨てられた吾郎の過去など、その人の陰となる面にエモーションを置くことで、バレエが与えるあかるい影響を、ドラマティックに強調する。ともすれば、せせこましいテンポの進行が、読み手の評価を左右する可能性もあるが、作品においてもっとも重要な要素である踊りを描くにさいして、優美で躍動感があり、なおかつ独創性が出るように工夫がこらされており、それがちゃんと、こちらに訴えかけてくるカタルシスへと繋がっているのが、良い。