ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2005年07月25日
 「ニート」は、紀伊国屋書店で販売されている『i feel』という冊子掲載の掌編で、現在ネット上でも読める(→こちら)。その続きにあたるのが「2+1」という短編である、『野性時代』8月号に掲載されている。通して読む、全体のトーンとしては、『イッツ・オンリー・トーク』と『袋小路の男』のコンビネーションみたいなところがあり、一昔前の角田光代がルームシェアリングを用い、人と人との新しい関係性を捉まえようとしていたのに近しい、男と女がどうしても共同体になれないことの新鮮さとアパシーが綴られている。90年代「J文学」期にはフリーター文学として、そこで扱われていたモラトリアムの段階は、00年代にはニートという形へと変容している。そういえば「ニート」のなかに、次のようにある。〈私は無職で、懸賞小説を書いていた〉〈その頃そんな言葉はなかったが、私もニートだったのだ〉〈せめて夢でもあれば世間は大目に見てくれたかもしれない。少なくとも、私は物書きになりたいという夢だけで、世間にはずいぶん許してもらっていた〉〈けれど夢なんて言おうものならキミはせせら笑うに違いない〉。いま現在、30代になり作家として暮らす、つまり10年前にはフリーターだった、語り手である女性の言葉だ。

 彼女と、2年前に付き合いのあった男性との再会が「ニート」と「2+1」における、話の中核になっている。昔の馴染みである〈キミ〉のサイトをひさびさに見た〈私〉は、そこで〈キミ〉が働かず、引きこもり、貧しさに喘いでいることを知る。本も出せるようになり、それなりに余裕のできた〈私〉は、〈キミ〉に金銭的な援助をしたいと思う。それを〈キミ〉が素直に受け取ったり、喜んでくれないのはわかっている。けれども、どうしても、そうしたい。だから〈私〉は〈キミ〉を食事に呼び出すのだった(「ニート」)。〈私〉の援助は、結果として、よけいに〈キミ〉を行き詰まらせてしまったのだろうか。働き出したはずの〈キミ〉は、わずか半年で、元の飢えと貧困の生活に戻ってしまう。金がなく、次々にライフラインの断たれてゆく〈キミ〉は、今まさに死へと向かっているみたいだ。ふたたび〈私〉は〈キミ〉に対して手を差し伸べたいと思う。一時的な救済措置として〈私〉は〈キミ〉を自分の部屋に避難させる。が、〈私〉は一人暮らしというわけではなくて、女友達とルームシェアをしていた。しかし最近の〈私〉たちは、お互いにお互いを避け、もう口をきくこともなくなっていた(「2+1」)。

 「2+1」において、けっきょく〈私〉と〈キミ〉は寝る(性交する)ことになるのだけれども、〈私〉は〈キミ〉とのことを、恋愛だとは考えない、考えないけれども、〈キミ〉のことを好きだと思う。結ばれ、ずっと一緒にいたいとは願わないのだが、〈キミ〉がいなくなることを想像すると、泣ける。それはいったいどのような感情だろう。僕なりに、シンプルにいえば、こういうことではないだろうか。人はひとりでは生きていけない、そんなことはなくて、じつは人はひとりでも生きていける、けれども、ひとりで生きてゆくという事実は、どこか暗い。その暗闇のなかに拡がる、絶えず拡がり続ける静寂は、悲しみに似た感情を深く、表からは見えないような、そういう心の奥深いところに、喚起する。

 『スモールトーク』についての文章は→こちら
 『逃亡くそわたけ』についての文章は→こちら
 「愛なんかいらねー」についての文章は→こちら
 『袋小路の男』についての文章は→こちら
 『海の仙人』についての文章は→こちら
 「アーリオ オーリオ」についての文章は→こちら
posted by もりた | Comment(1) | TrackBack(2) | 読書。
この記事へのコメント
お久しぶりです。
以前、MSNで「明日へ向かって撃て!」を連載していたビップこと戸田修司です。
ちょっと体調を崩してブログもたたんでしまいましたが、本業の音楽活動のブログ(ほとんどUPしてませんが)
http://spaces.msn.com/members/sicktucknall/
と非営利団体の「自育支援ねっと」のHP、
http://homepage.mac.com/bipbop_link/
(まだラフですが)をやっていますので、今後とも宜しくお願いします。
団体のほうではニートについても触れていこうと思います。今回の記事はとても参考になりました。
Posted by 戸田修司 at 2005年07月26日 17:18
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