ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2005年07月18日
 繰り返し読むたびに新しい発見があるというのは、一言でいえば、すばらしいことだな。上杉和也の死後、達也と孝太郎の和解は、『タッチ』という物語において、とても重要なモーメントのひとつである。

 それまで達也のことを良く思っていなかった孝太郎が、はたしてどの時点で、達也の存在を受け入れたのか。あだち充の巧みなストーリー・テリングは、決定的な転換を、読み手にそれとは意識させないのだが、おそらくは、西村率いる勢南戦のさなかではないかという気がする。いや、たしかにそれ以前にも、ふたりの間にある空気は、じょじょに緊張を緩和させているのだけれども、そのことはどちらかといえば、達也のほうの一方的な歩み寄りによるもののように思える。孝太郎が、達也を、和也の代替ではない、いち友人として認めたのは、やはり勢南戦においてなのだった。

 勢南戦で、孝太郎は、大きなミスをふたつ行う。どちらも、明青に勝利へと繋がるような得点がもたらされる、そういう大事な場面にかかっている。そのため、孝太郎の肩の落とし具合は、読んでいて、辛くなるほどだ。が、そのどちらをも唯一救うのが達也のフォローなのであって、その2回のフォローなしでは、その後に展開されるような絶対的な信頼関係は育まれなかっただろう、と考えられる。

 とくに孝太郎の2度目のミステイクに対する達也の態度は、名場面のうちのひとつに数えられるぐらいに感動的だ。また、そのへんの見せ方に、あだち充のマンガの巧さが伺える。この完全版でいえば、P307からP327のくだりである。

 両校ともに得点なし、緊迫した状態で試合は続いている。達也の消耗は激しい。と、そのとき雨が降ってくる。ベンチでうなだれる達也、バッターボックスに立つのは孝太郎である。このとき、孝太郎は打順を間違えている。味方の側で、それに気づいているのは、達也だけなのだが、時すでに遅く、孝太郎はホームランを打ってしまっているのであった。もちろん無効である。だが、思いがけない勝利の予感に味方のベンチは沸いているのであって、さらには孝太郎自身が最初のミスを取り返したとばかりに感涙しているのであって、そのぶん無効であることが判明したときのダメージは大きい。しかし、そのダメージの大きさは、達也のさりげない優しさによって、かろうじて救われる。遠くから達也を見つめる、浅倉南の〈打順を間違えた孝太郎くん、気づかなかった石垣さん…その二人に責任を感じさせないために――〉というセリフが、その場で起ったことをうまく説明している。

 試合終了後、時間は進行して、達也と孝太郎は進級している。そのときにはもう、達也と孝太郎の間には、かつてのようなわだかまりは微塵もない。むしろ深い理解によって、ふたりの関係は支えられている。のちの展開において、その関係が、物語のひとつの支柱とし機能しているのは、周知のとおりである。

 第1巻から第3巻までについての文章→こちら
posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(0) | マンガ。
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