ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2005年07月13日
 I LOVE YOU

 この本『I LOVE YOU』は、伊坂幸太郎、石田衣良、市川拓司、中田永一、中村航、本多孝好といった、なんともウケのよさそうな作家ばかりを集めた恋愛小説集である。とはいっても、中田永一という人の作品は、僕はこれではじめて読んだのだけれども。こうしたアンソロジーは、女性作家ばかりを集めたものはよく見かけるが、男性作家のみというのは珍しいのではないだろうか。どうだろう。そんなこともないのかな。とにかくである、僕の場合は、伊坂と本多の作品を目当てに購入した。のだが、いちばん良かったのは、もちろん個人的な好みかもしれないが、中村のものであった。ちなみに、いちばん泣けてきたのは伊坂のものだが、物語のなかで人が亡くなるのも、唯一伊坂のものだけであった。まあ、どうでもいいことだ。

 そのようなわけで、中村の短編「突き抜けろ」についてのみ、触れる。大学生の〈僕〉とその恋人は、お互いに想いが深すぎるばかりに、日常生活に支障をきたす、そのことを回避するために、きっちりと立てた予定に則って、愛情を育んでいこうと取り決める。週末には彼女に会えるが、それはつまり、週末にしか彼女に会えないってことだ。けれども、そんな生活も悪くはないかな、と思う。ある日、友人の坂本から、木戸さんという坂本の地元の先輩を紹介される。彼はすごく気の難しい人であったけれども、たしかに悪い人でもなかった。恋人との生活のサイクルがあって、そして坂本や木戸さんとの生活のサイクルがある、その噛み合ったところに〈僕〉はいて、そのなかで微かに訪れる変化が、〈僕〉に生きていることの実感を教えてくれるようだった。

 いつぐらいに書かれたのかはわからないが、同作者の『夏休み』や『ぐるぐるまわるすべり台』よりもずいぶんとわかりやすく、モラトリアムが終焉する予感について述べられた小説であるように思う。おそらくクライマックスだろう場面で、木戸さんが次のように言う。〈俺はな、もう全盛期を過ぎたんだよ〉〈お前らは今、そういう全盛期にいるんだぜ。だからな、俺からアドバイスしといてやる。そういうのはな、いつか終わるんだぜ〉。この言葉の重要性は、それがモラトリアムが終わった場所からではなくて、あくまでもモラトリアムの最中であるような、そういう場所から発せられているところにある。終わりとは、変化のべつの名前でもある。はっきりといえば、小説のなかで交わされる会話のほとんどは、酔っぱらいの戯言にしか過ぎない。酒の席における発言とは、いったいどのような種類のものだろう。それは、ときにほんとうのことである、が、ときに他愛もないことであり、ほんとうであるならば口にされる必要のないものなのではないか。自分は変わった(変わるのだ)、って堂々と宣告するのは、照れる。あるいは、わざわざ言うことでもないのだろう。が、しかし秘せられず、発せられることによって、それは定型化し、やがて身についてゆくということだってありうるのだ。
posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書。
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