ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2005年07月06日
 AMEBIC

 大まかな感想をまず最初にいっちゃえば、前の2作よりも、ぜんぜん良いと思う。後半は完全に払拭されるけれども、前半部における、海外の小説家、誰だろう、たとえばバタイユかセリーヌか誰かの、あくまでも翻訳(生田耕作になるのか)を模倣したかのような文体も悪くはない。が、この『AMEBIC』という作品のポイントは、他者と妄想、の描かれ方にある。その点についてのみ、前の2作よりも前に進んでいる。僕は、『蛇にピアス』も『アッシュベイビー』も基本線は、主人公が自分の自意識を許すために他者を妄想するところにあった、と考えている。もうすこし言い方を変えると、他者の自意識は許さないが、自分の自意識は許す、結果、他者は消える、しかし主体というものはそれだけでは、けっして自立できないのであって、だから他者を妄想せざるをえない、『蛇にピアス』と『アッシュベイビー』における、あの主人公にとっての都合の良さは、そこからやってきている。とはいえ妄想は、進行すれば自家中毒に陥り、息苦しさを生み出す、そのような息苦しさ、そこに横たわる共感こそが、金原ひとみという作家と読み手を繋ぐラインだったのである。ここでは、そうした一面がさらに(すこしだけ)掘り下げられている。どういう風にかといえば、自分の自意識の強度を高めることによって、かろうじて他者の自意識を許すような、そういう所作がとられている。しかし、自意識の存在することを許された他者は、反対に、主人公の自意識のなかに棲むことが許されない。たとえば、セックス(性交)が具体的に書かれないことなどは、その現れだろう。作中に登場する「アミービック」という「錯文」(さくぶんと読むのだろう、たぶん)は、マスターベーションの描写を思わせる。主人公は自分の自意識だけの完結を求めているわけではないのだが、自分の内側に他者を感じとることができないので、自分の自意識それ自体を分裂させてゆく。錯乱状態に陥った昨夜の自分と、平静であるような今日の自分とが、まるで切断されてしまっているのは、そのためだ。いや、しかし、根本の問題として、本来であるならば他者は、自己の外側に位置する限りにおいて、他者たりうるわけで、自己の外側にいる他者は承認できず、自己の内側にいる他者しか承認できないというのは、ある種の転倒になるわけだ、が、そうした転倒そのものが、この国のこの時代の反映であり、この小説のリアリティを担う、そういう前提になっているのである。と、そのことが、幸か不幸かなのかを、僕は知らない。それはともかく。作品内容、作風のいずれも、赤坂真理の諸作に似たところがあるけれども、あれよりもずいぶんと鈍くさいというかイモ臭くあり、ちょっと白けるのだが、そのへんを今後どう処理してゆくのか、つまり、このスタイルに拘泥するのか、それとも洗練させるのかという、そういった部分を、90年代以降世間一般的な自意識の捉まえ方がどのように変遷したか、に照らし合わせるのであれば、ひとつの見方として、この作家には興味を持てなくもない。
posted by もりた | Comment(2) | TrackBack(2) | 読書。
この記事へのコメント
いつもロムっていましたが、今回、コメントさせてもらいます。勝手にリンクにさせてもらいました(すいません)。ダメでしたら、言ってください。

金原の『アッシュベイビー』を読んでからこれを読もうかと思っているのですが、読み終わったら、もりたさんのレビューをゆっくり読みたいと思います。

そういえば菊地成孔さんと金原ひとみと対談ましたよね。対談、まだ読んでませんが読むのが楽しみです。

それでは失礼しました。
Posted by ケンスケ at 2005年07月29日 21:58
ケンスケさん、どうもはじめましてです。
リンクの件はこちらこそどうぞお願いしますといった感じなので、ありがとうございます。

菊地成孔と金原ひとみの対談は、今はなき(つい先日まであった)菊地成孔のWEB日記で触れられていたやつですね。
僕もまだ読んでないのですが、菊地成孔は以前『インビテーション』誌でのよしもとばななとの対談で、ずうっと吉本隆明(よしもとばななの親父さん)のことを話し続けるという、意図的なのか無意識なのかわかりませんが、相手に対してけっこう意地悪なトークをする人なので、そこいらへん、すごく楽しみだったりします。
Posted by もりた at 2005年07月30日 17:13
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

この記事へのトラックバック

AMEBIC[Acrobatic Me-ism Eats away the Brain, it causes Imagination Catastrophe.]
Excerpt: これ、どうなの?なんだかすごく淡々としていて感情の起伏がリアルに感じられない、それが感じられたのは、婚約者と会った場面で、その後も、これは女としての感情がたっているだけで、この話は自己同一性が重要では..
Weblog: ドイケンブログ 妄
Tracked: 2005-07-17 20:55

AMEBIC<金原ひとみ>−(本:2007年77冊目)−
Excerpt: AMEBIC 出版社: 集英社 (2005/7/6) ISBN-10: 4087747697 評価:75点 「蛇にピアス」で芥川賞を受賞した金原ひとみ。 初めて彼女の本を読んだが..
Weblog: デコ親父はいつも減量中
Tracked: 2007-08-04 17:06