ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2005年07月04日
 エソラvol.2

〈なんとなくこう言いたくなる。御苦労さん作者さん。御苦労さん読者さん。まず衆目のみるところ、もっとも希望をつなげる意欲的な若い世代のホープたる作者が、精いっぱい物哀しく、明るく軽い叙情をみなぎらせて、知的なたわむれの世界を繰ひろげてみせてくれた〉と、これは吉本隆明が村上春樹『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』について書いた文章の一部である(『新・書物の解体学』)が、僕は、この伊坂幸太郎『呼吸』という小説に対して、なんとなく、ほんとうになんとなくなのだけれども、その一文を引きたくなってしまった。村上における知的さは、伊坂においては青臭い人生訓やステレオタイプな社会的見解にスライドしているが、それは時代にともなう知的水準や感性の変遷に比例しているのだろう。

 さて。『呼吸』は、『エソラ』第二号に掲載されており、同誌創刊号にて発表された『魔王』の続編である、つまり、その後の物語である以上『魔王』の結末に抵触するため、その詳しい内容についてはスルーさせていただくが、『魔王』の主人公であった安藤の、その弟の、「消灯ですよ」というフレーズが印象的であった恋人(妻)が、語り手をつとめている。

 彼女もまた、安藤がそうであったように、市井の自意識のいちヴァリエーションでしかない。彼女が見る世界は、彼女からしか見えない世界であり、彼女が目を閉じれば、その世界が抱えている騒がしさは消える。『魔王』で安藤は、「考えろ考えろ」と唱えることによって、その視野を拡大しようとしたが、ここでは「考えない考えない」という言葉がこだまする。そういった意味において、『魔王』と『呼吸』は、掲載誌の帯にあるとおり対になっている。だが、それは終盤になって、ゆるやかに変調するので、たぶん今度は、安藤の弟を主人公にした続きが書かれるのではないかな。いや、これはこれでちゃんと完結しているのか。だとしたら、ずいぶん釈然としない気持ちが残る。

 『魔王』についての文章→こちら
posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書。
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