ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2007年06月30日
 時は徳川三代将軍家光のころ、藩主に謀叛を企てたうえ、姉夫婦と甥を殺害した罪で、追っ手を差し向けられる物辺総次郎であったが、真相はまったく異なっており、そのために姪である沙絵を連れ、どうしても江戸まで逃げ延びなければならなかった。一方、同じ事件に深く関わり、そして真相を知ったがために、すべてを奪われ、もはや正気すらも失った伊藤は、かつての親友である物辺を苛酷な運命から救ってやろうとし、その殺害に、ただならぬ執念を傾ける。こうした二組の、じつに血なまぐさい道ゆきを中山昌亮の『泣く侍』は描いているのだが、この2巻では、1巻の終盤に予告されていたとおり、公儀隠密の、つまりは忍びの手練れが、彼らの宿痾に絡んでくる。まあ、男はもちろんのこと、女子供ですら容赦なく、ばんばんぶった斬られ、死ぬ、そうして作品に満ちる殺伐とした雰囲気は、江戸時代を舞台とする非情な剣劇にあって、特殊なケースではないだろう。そこで、このマンガならではの色を出しているのは、やはり物辺と伊藤、その二者の対照に他ならない。心を閉ざした沙絵がすこやかに生きていける居場所を求める物辺に対して、居場所を無くした人間は死によってのみ解放されると信じる伊藤、それぞれの行動原理は、相反するベクトルにより支えられているといえる。むろん、作中において伊藤は、あくまでも狂人として捉まえられているのだが、しかし、そうした彼の人格はおそらく、自己憐憫を他者へのそれと取り違えてしまったことからやって来ているのであって、それというのは、程度の差こそあれ、誰にでも起こりうることでしょうと、けして正常の対極にばかり位置づけられるものではなく、意外と身近な存在にも感じられる。
 
 『不安の種』(『週刊少年チャンピオン』版)第1話について→こちら
 『PS羅生門』第9巻(原作・矢島正雄)について→こちら
posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(0) | マンガ(07年)
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