ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2007年06月29日
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 今月から隔月刊誌となった『モーニング2』のなかで、もっとも楽しく読んでいる連載はといえば、それはもう、杉本亜未の『ファンタジウム』に他ならない。セキュリティ会社の第一線で活躍するエリート北条は、仕事のために訪れたカジノ・バーで、プロのギャンブラー顔負けの高度なカード・トリックを駆使し、勝利をおさめる場違いなジャージ姿の少年、長見良に出会う。はたして何の因果か、良の見事な腕前はじつは、マジシャンであった北条の亡祖父から受け継いだものだった。ここから、マジックの世界に憧憬を抱きつつも、才能の恵まれていない北条が、自分の夢を良に託し、反対に、才能に溢れながら、境遇に恵まれていなかった良は、北条の協力を得、一流のマジシャンとして成長してゆく、その過程を、物語は追うこととなる。おおきく年齢が離れ、育ちも異なり、ましてや血縁者でもない、まったくの他人であるにもかかわらず、北条と良のあいだには、いわく言い難い、つよい結びつきのある理由を、そもそも作者が所謂ボーイズラブ系のマンガ家だから、という一言で片付けるのは容易いが、しかし、それでは何の説明にもなっていない。着目すべきは、彼らの繋がりが、欠損があるゆえに他者を求める、そういう関係式の上で、相互に要されている点だろう。家庭環境に問題があり、さらには難読症(じっさいには「発達性読み書き障害」)のため、中学校にも通えない良は、けっして豊かな少年時代を過ごしているとはいえない。それを知った北条の、良への肩入れが、たんなる同情なのかというと、いや、そうではないことは、たとえば次のような場面、北条の友人でマジックにも理解のある加賀谷が、良の秀でた技術を認める一方で、その存在を訝しみ、〈あの子と……深く係わらない方がいい お祖父さんの弟子とはいえ所詮他人だ〉〈痛みを抱えた子に同情するお前の優しさは認めるが……アーティストには教養が必要だろ〉〈だってあの子は中学生なのに……字も書けないじゃないか〉と蔑むのを耳にしてしまった良の、〈ひとつだけ訊きたいんだけど 俺がかわいそうだから来てくれてる?〉という問いに対して、北条は〈いや違う! 俺が良と係わってんのは 言ってみれば俺の贅沢だ!!〉と答えるやりとりからもあきらかであるし、また、ふたりが出会ったばかりの頃、あまりの才能に驚いた北条が熱心にマジックの道に進むことを薦めたさい、良は〈ガッカリされるのはなれてるけどさ 俺を軽くとらえてないか?〉〈マジックを始めたのは不思議な事に興味があったからなんだけど……自分の才能が本物か若さからくる自信なのかはわからない〉〈マジックをとったら何もないんだ 自分を支えてるただ一つのものだから それをなくしたら……〉と躊躇う、この言葉はつまり、自分の素性を誰よりもよくわかっている良が、自分で自分を閉じておくために課した重石であり、まだ未来を諦めてしまうには若すぎる彼に、そこから解き放たれる機会がありうるのだとすれば、北条の登場こそが、まさしくそれにあたる。こうしてバディとしての固い絆を築き上げるふたりの姿に併せ、マジックの持つ魅力が人びとの心を豊かに変えてゆく様子が、作中に描かれるのだけれど、掲載誌である『モーニング2』自体が増刊号扱いという、のるかそるかの微妙な位置にあることと関係しているのか、この1巻に収められているエピソードはすべて、必ずしも続きを必要としないような、シリーズ読み切りに近しい発想で成立しており、そのぶん一話一話にまとまりがあって、ラストのワン・カットが残す余韻が深々としているのも、魅力的である。
posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(0) | マンガ(07年)
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