ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2017年09月11日
 鬼門街 7巻 (ヤングキングコミックス)

 岩明均の『寄生獣』は名作として残るだろうと思う。が、時代的な背景か、学生が主人公だからか、不良少年や非行少女のモチーフが作品へと流れ込んでいたことを忘れてはいけない。『寄生獣』の影響を受けたと覚しきマンガは少なくはないけれど、それらのほとんどから抜け落ちているのも、その点である。永田晃一の『鬼門街』は、おそらく『寄生獣』の流れを汲んでいる。『寄生獣』の流れを汲んでいる作品群のなかにあって、不良少年のモチーフを顕著にしているところに、独自性を見つけられる内容でもある。主人公は、しかし、不良少年ではない。

 そこが鬼門街と呼ばれるのは、古来より凶悪犯罪が多発するためであった。どうしてなのかが不明なので、鬼の仕業という言い伝えが広まったのだ。主人公の川嶋マサトは、両親とともに鬼門街で暮らしている高校生である。長距離トラックの運転手である父親は家にいないことが多く、口うるさい母親を煩わしく思っている。学校での存在感は薄く、ラーメンの食べ歩きぐらいしか趣味がない。好きな女の子に声がかけられるわけがない。目立っていないかわり、いじめに遭っていないことが救いである程度の平凡な日常に倦んでもいた。だが、その日常は、マサトが眠っているあいだ、自宅に侵入した何者かが母親を殺したことで、いとも容易く壊れてしまうのだった。

 なぜ母親が死ななければならなかったのか。誰が母親を殺したのか。母親の死から三ヶ月経っても犯人は見つからず、世のなかが理不尽であることを肌で感じていたときだ。マサト自身、通りすがりの男たちに暴行され、いま正に命を落とそうとしている。それは死の間際の夢なのか。いや、鬼門街には、本当に鬼が住んでいた。生きたい一心で「豪鬼」と名乗る鬼に魂を売り渡したマサトは、今まで知ることのなかった鬼門街の暗部に深く足を踏み入れることとなるのであった。マサトとマサトに取り憑いた豪鬼の奇妙な二人組(バディ)が、同じく鬼に取り憑かれた人間と次々対峙していく。これが作品の基本的なフォルムだといえる。

 マサトと豪鬼の関係、そして、母親を失ったマサトと父親の関係に『寄生獣』との類似性が見受けられる。強力な異能を手にした少年が、「俺TUEEE」式のフル・スウィングや人類規模の闘争に淫するのであれば、今どきだろう。だが、そうはなっておらず、あくまでもマサトは、日常の生活に踏みとどまろうとし、超常現象のさなかに人間性を手放さないでいようとする。この小さく孤独な戦いの激しさに『寄生獣』の新一に重なり合うものがあるのである。肝要なのは、母親の死に対する責任がマサトの胸中においては非常に大きな割合を占めていることだ。思春期だからこその無関心や、それによって起きてしまった過失を、いかに乗り越えるのか。マサトの等身大の苦悩が『鬼門街』に普遍的で生々しいエモーションを与えているのだと思う。

 5巻と6巻で描かれた出来事は、さらなる苦悩をマサトにもたらした。豪鬼に魂を売り渡したことで人間離れした身体となったマサトが、内面に著しい傷を追わなければならないというのは、アイロニーだろう。どれだけ後悔を繰り返したところで後悔しか生まれないのか。自分にできることは少なく、人間の存在そのものが悪であるかのような悲劇が続くことに、マサトは疲弊し、追い詰められていくのである。追い詰められていくのは、マサトばかりではない。家族の復讐を果たそうとするマサトの父親やマサトの先輩である不良少年の広瀬智也もまた、見舞われた不幸に抗った結果、日常の外側へと進み入ってしまうのだ。とりわけ智也は、この7巻において、もう一人の主人公に近い立場にまであがっている。ケンカに滅法強く無敵に思われた智也だったが、ある種の転落を経、鬼門街の鬼を目の当たりにするのであった。そこで智也に内蔵されたのも、やはり、過失と後悔のテーマであろう。

 先に散々『寄生獣』の流れを汲んでいると述べた。それは決して悪い意味ではない。名高い先行例を下敷きにし、作者ならではの視線を盛り込み、独自性を編み出そうとしているところに『鬼門街』の魅力が生じているからだ。社会からこぼれてしまった犯罪者や不良少年にフォーカスを絞ることで、血生臭いバトルが展開されるに至っていると同時に、暴力を否定するための物語が極めて直接に現れているのである。学校に居場所がなかった少年の憂鬱は『Hey! リキ』の序盤にも描かれていた光景であって、それは鬼や犯罪者と関わり合ううちに変化や成長を遂げるマサトの姿へと受け継がれている。

・その他永田晃一に関する文章
 『Hey!リキ』
  17巻について→こちら
  14巻について→こちら
  12巻について→こちら
  10巻について→こちら
  9巻について→こちら
 『スマイル』(柳内大樹との合作)について→こちら
 『ランディーズ 完全版』について→こちら
posted by もりた | Comment(0) | マンガ(2017年)
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