ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2017年06月19日
 アヴァルト(5) (シリウスコミックス)

 メタ・ファンタジーものといおうか。MMORPG的なリアリティ(現代ならではの知識や感性)で(本来ならば前近代であるような)剣と魔法の世界を再構成するというタイプのフィクションは近年のトレンドだけれど、群を抜いているのではないかと思われるのが、光永康則の『アヴァルト』である。ファンタジーやSFなどを通じ、よく「わかっている」はずの設定が駆使されているにもかかわらず、先のまったく「わからない」展開が次々と現れてくるのだ。

 ああ、そこは既に発狂した世界であった。宇宙航海の途中で1万年の長き冷凍睡眠(コールドスリープ)から目覚めたロイド・コスギは、いつの間にか自分たちの船が地球の圏内に戻っていることを知った。どうしてか自分以外の乗務員が皆いなくなっていることを知った。地上の人類と文明のほとんどが失われてしまったことを知った。しかし、最も驚愕させられたのは、わずかに残った人類が、とあるMMORPGのNPCに支配され、NPCである彼らを神(アヴァルト)として崇めていることなのだった。一体何が起こったというのか。手がかりを求め、その(自分もプレイヤーのアカウントを持ち、かつて遊び尽くした)MMORPGにログインしたロイドは、まさか実際の地球にアバターの姿を借りて降り立てるとは思ってもみなかった。

 作品そのものに仕掛けられた謎を、ロイドを含めた登場人物たちが解き明かしていく過程のなかに素晴らしいダイナミズムがあるため、物語を詳しく説明するのは難しい。が、神と同じ銀の髪色のせいで母親を殺された少年、タギやタギを庇ったおかげで神の立場を追われた美女、シノアと行きがかり奇妙なパーティを組むことになったロイドは、徐々にではあるけれど、なぜMMORPGのNPCが神となり、地球に君臨しているのかという真相へと近づいていくのである。

 ロイドとは、登場人物の1人であることはもちろんなのだが、作品の枠組みをメタ・レベルから認識しうる視線にほかならない。そして、それは作品そのものを外部から覗き見ている読者の認識を肩代わりしてもいる。世界はいかに発狂しているのか。ロイドの得た想定がショッキングであればあるほど、物語の求心力が倍加される。さらにいうなら、神の正体に気づいている人間はロイドだけではない。要するにメタ・レベルの認識を有した別のパーティが存在していることは、これまでに描かれており、5巻にきて、そのうちの1人であるヒルダがロイドたちのパーティに合流してくる。もっと大きな局面も訪れる。ロイドの居場所は2巻の終盤からほとんど動いていないのに、物語は着実に進んでいるという印象がある。あらかじめ打たれていた布石が、こう繋がるのだと感心する。てきめんな効果をあげているためであろう。

 ところで、剣と魔法の世界において不思議なことが起きたりするのは、どういったわけなのか。異能の力が働いたりするのは、それが剣と魔法の世界だから式のトートロジーで説得されるよりほかない作品が、ままある。しかし、『アヴァルト』では、ファンタジーでしかありえない現象がありえてしまう疑問に対し、科学での証明が果たされるのだ。つまり、メタ・ファンタジーものであると同時にSFでもある。あるいは、SFのロジックによって可能になったメタ・ファンタジーものだといえる。作品そのものに仕掛けられた謎を解き明かしていく過程のなかに素晴らしいダイナミズムがあると述べたのは、このような意味である。タギの成長にちなんだジュヴナイルな一面を持ってはいるけれど、タギの役割が増すにつれ、不穏な問いを確かめざるをえなくなる。なにゆえにタギは神と同じ銀の髪色をしているのか。

 本来なら凄絶な地獄が舞台となっているわりに、全体のテンションは悲惨にならず、登場人物の死がエモーショナルに傾きすぎていないあたり、『怪物王女』の作者だな、と思わされる。

 他方、ロイドやヒルダのパートナーであるコウサに共通した倫理が備わっている点を看過してはならない。それは1巻におけるロイドの言葉を借りるなら〈俺は旧文明の生き残りとして こうなってしまった責任を少しは感じる だからこの時代の人間たちに神を斃す方法の道筋ぐらいはつけてやりたい〉ということであって、4巻におけるコウサの言葉を借りすなら〈‥‥俺たちはさ かつての人類を知っている 知っているんだよ 俺は旧世代の人類として俺達の持っている火を 運んで 誰かに渡さなきゃいけないんだよ〉ということである。この毅然とした決意が、取り返しがつかない災厄の満ち満ちた『アヴァルト』の世界に一縷の望みを与えていることは間違いない。

 繰り返しになるが、ロイドの視線は読者の認識を肩代わりしている。もしもそうであるとしたら、人類がはからずも未来に残してしまった負の遺産について無責任を決め込まない彼の態度は、ファンタジーだから、SFだから、では済まされない今日的なテーマを内包してもいるのであった。
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