ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2016年11月30日
 キミとだけは恋に堕ちない 3 (りぼんマスコットコミックス)

 大昔だったら、フィクションで兄妹(姉弟)間の恋愛が禁断として描かれているのを見ると、ああ、これは本当は血が繋がっていないパターンでしょう、と考えをめぐらすことができたのだけれど、近年では、実際に血が繋がっていようと結ばれてしまうパターンが珍しくはないので、もうそのへんを疑ってみても単にだらしがないだけなのだから深く読み取ったって仕方がねえよな、と思わざるをえないのだった。が、しかし。以下、酒井まゆの『キミとだけは恋に堕ちない』の3巻について、ネタを割った内容となる。

 成績と外見が優秀な二人の兄、透と航とに厳しくも大切にされてきたヒロイン、星崎すばるは、高校に入り、吉田新という同級生で、お調子者の男子と関わり合うようになっていく。同じ高校の上の学年にいる真面目な兄たちに比べ、クラスメイトの新は、ふざけてばかりで信用のならないところが多い―― はずだったのに、どうしてか心が引かれていくのであった。おそらく、こうした1巻からの話の流れで題名の『キミとだけは恋に堕ちない』に示唆されている「キミ」とは、すばるにとっての新のこと、さらには新にとってのすばるのことだ、と読者の少なからずが信じ込まされたのではないか。あるいは、すばると新が相思相愛で付き合うことになった2巻を経、なるほど、これは『キミとだけは恋に堕ちない』つもりでいた二人の偶発的でチャーミングなロマンスに違いない、と作品の方向性を見て取ったのではないか。そうであるとするなら、すばるの二人の兄はロマンスが容易いものではないことを裏付けるための障害にほかならない。だが、3巻において、航とすばるに血の繋がりのないことが(読者と新に)バラされてしまうのである。

 すばると新の交際を渋々ながら容認し、新とも穏当な関係を築いていく航の姿は、良いお兄ちゃんじゃん、という印象を強くしている。それが航とすばるに血の繋がりのないことを(読者と新に)バラすことで、異なったニュアンスを帯びはじめる。すばると新の交際を渋々ながら容認するかのような航の態度は、必ずしも彼の寛容さによっているわけではなく、もしかしたら彼が抱えている抑圧の裏返しであるかもしれない可能性を導いてくるのである。血が繋がっていないとはいえ、すばるとは兄妹であるがために恋愛の感情を表にすることは許されない。そのような抑圧を念頭に置き、作品を見返すとき、『キミとだけは恋に墜ちない』という題名における「キミ」とは、航にとってのすばるを、さらにはすばるにとっての航を意図しているのではないか、と読み替えることもおかしくはなくなるのだ。「落ちる」ではなく「堕ちる」の字が当てられているのは、兄妹間の恋愛が禁断として描かれている以上、象徴的でもある。

 航とのあいだに血の繋がりがないことをすばるが承知しているかどうかは、現時点では曖昧にボカされている。が、重視されたいのは、これまで具体的ではなかった三角関係の構図が、航とすばるに血の繋がりがないという背景を得たことで、くっきりと浮かび上がったと同時に、すばるを中心にした新と航の綱引きへ、今までになかった緊張状態がもたらされている点であろう。この展開が連載の最初から用意されていたのか否かは知れないものの、明らかに物語が異なったフェイズに入ったことを、新と航の緊張状態は教えている。

・その他酒井まゆに関する文章
 『MOMO』
  7巻について→こちら
  3巻について→こちら
  1巻について→こちら
 『クレマチカ靴店』1話目について→こちら
 『ロッキン★ヘブン』
  8巻について→こちら
  7巻について→こちら 
  6巻について→こちら
  4巻について→こちら
  3巻について→こちら
  2巻について→こちら
  1巻について→こちら
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