ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2005年06月15日
 SFパニックものとしてというよりは、ある種のビルドゥングス・ロマンとして読んだ。というのも冒頭、やがて中心人物となる海上自衛官2人の造形があまりにも幼く、ああこりゃあまずいな、と思ったのだが、しかし読み終えたときの印象がまったく違っていたのは、物語を経ることによって、彼らに成長がもたらされたのだと理解したからで、そういった部分にこそ、つよく読み応えを感じた。またビルドゥングス・ロマンをまっとうするのは、なにも彼ら2人に限ったことではない。有事に遭遇した登場人物のほとんどが、成長を強いられる中盤以降、作品の強度はぐんと増す。

 その日、米軍横須賀基地は賑わっていた。春のイベントのため、市民に開放され、たくさんの行楽客が訪れていた。しかし、突然の非常事態が発生する。人体よりも大きなザリガニに似た甲殻生物の群れが、海から沸き、陸に上がり、人々を襲い、そして食いはじめたのだ。惨劇のなか、逃げまどう少年と少女の集団がった。あわやという場面で、彼らを救ったのは、基地に停泊中であった海上自衛隊潜水艦『きりしお』の若き乗組員たちである。だが、巨大ザリガニの包囲を突破することは叶わず、結果として、動きの止まった『きりしお』艦内に立てこもることとなる。はたして救助はやってくるのか。そのようにして、2人の自衛官と13人の未成年たちとの、奇妙な共同生活がはじまった。

 ポイントとなるのは、保護者的な人物が、早々に退場することだろう。そのため、『きりしお』艦内には、成人している2名も含め、イノセントではないけれども大人にはなれないモラトリアムとほぼ同義のライトノベル的なキャラクターたちだけが、残される。

 6日間という期間がそうさせるのかもしれないが、『きりしま』艦内で起るトラブルは、閉塞的な環境によって追い詰められたというよりは、むしろ、それまでに経験したことのない出来事(基本的には他者との接触)によって、登場人物たちが戸惑うといった部分に起因している。そして、それは万遍なくブレイクスルーされる。つまり年齢こそ一定ではないが、しかしみな一様にそこにある状況によって、通過儀礼的なイニシエーションを得ることになるというわけだ。その構図は、自衛隊出動をめぐる警察内部の動きという『きりしお』外部での展開にも適用されている。

 成長のための痛みは、ときに人の死という形で現れるが、そこのところで描かれる情緒には、ぐっと来るものがあった。

 『塩の街』についての文章→こちら
 『空の中』についての文章→こちら
posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(3) | 読書。
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