ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2016年03月20日
 コハルノオト(1)(プリンセス・コミックス)

 藤田麻貴の『コハルノオト』の1巻についていうなら、一話一話はえげつないともとれるエピソードであるにもかかわらず、総体的には雰囲気の良いマンガに仕上がっているように思われるし、おそらくはそれが作品の特性になっているようにも思う。

 人一倍真面目で働き者だが、昔から災難を呼び寄せてしまう体質(?)のせいで以前の職場を追われたヒロイン、室田小春は「悩み相談」の看板を掲げる大きな屋敷に住み込みで雇われることになるのだった。雇い主の青年、南方慧は一見すると爽やかだけれど、性格に難があり、実は他人の感情を匂いで判断できるのだという。

 依頼主が持ち込んできた事件を慧と小春の二人が次々と解決していく。これが基本のプロットであって、ラヴ・ロマンスであるよりは、サスペンスの色合いが強い。また、徒手空拳のヒロインが踏ん張り、周囲に影響を及ぼすというのは(作中の年齢層は少し高めに設定されているが)藤田の作品にお馴染みのパターンであろう。

 先に述べたとおり、一話一話に描かれている事件は、決して心穏やかなものではない。派手ではない。地味なほどにステレオタイプである分、ちょっとした弾みで魔の差してしまうことが、いかに卑近であるかをうかがわせる。

 人間には裏の顔がある。誰もが嘘をつき、騙す。それが慧の特殊な能力を通じ、浮き彫りにされるテーマであり、物語における起承転結の「転」である。しかし、あくまでも〈この世界は / 良心とか思いやりとか / そういうやさしいモノでできていると信じていたいんだ〉と願ってやまない小春の存在が「結」の部分に、明るいイメージを与えているのだ。

 多少大げさにいうのであれば、『コハルノオト』において一話一話のエピソードに展開されているのは、人間の善良さと邪悪さの対立、対決だと思う。そして、善良さが勝利することにこそ価値があるのだとするような仮定形を、小春と慧の二人は、ちょっとずつであろうと手応えのなかで確かにしていっている。

 そこに作品の特性が生じてもいるのである。

・その他藤田麻貴に関する文章
 『楽園のトリル』
  3巻について→こちら
  1巻について→こちら
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