ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2016年03月03日
 隠密包丁〜本日も憂いなし〜 3

 今やグルメ・マンガは主流である。しかし、そのリアリティの質は、ここ数年で大きく様変わりしているように思う。ここでいうリアリティの質とは、食べること(料理を作ること)をブリッジとし、いかなるライフスタイル(健康や流行を含めた生活様式)を提示するかにあると考えられたい。

 食は文化であるとしよう。その文化を手段として使用し、ある場合には目的として設定し続けることで、その文化そのものが再構築される。こうした図式をグルメ・マンガは内蔵しているとしよう。このとき、綿密な取材なり作者の思想なりが、作品の方向性を決定づけることがある。だが、現在では必ずしも綿密な取材や作者の思想を必要とはしない(もしくはアピールしない)作品が目立ちはじめているのだ。

 たとえば、『ダンジョン飯』や『だがしかし』のヒットを念頭に置かれたい。他方、あれだけ支持された『美味しんぼ』が極端に評判を落としてしまったのはなぜか。無論、一般的には『美味しんぼ』における綿密な取材なり作者の思想なりが誤っていたという見方もある。しかし、もしかしたら綿密な取材なり作者の思想なりを作品と合致させる式のフォオーマットにガタがきているのではないか。もはや、そのようなフォーマット自体にリアリティはなく、説得力を持ちえなくなったからなのではないか。

 以上は余談にすぎないが、少なくとも「食べログ」的な情報や「クックパッド」的なレシピに対抗しようとしているグルメ・マンガと「食べログ」的な情報や「クックパッド」的なレシピとは異なったベクトルを持ったグルメ・マンガとでは、後者の方にブームの可能性と盛り上がりを感じられる気がするのであった。

 料理人を主人公にした『蒼太の包丁』『ハルの肴 両国居酒屋物語』(どちらも末田雄一郎が原作)や近代文学の小説家と食とを題材にした『文豪の食彩』(原作は壬生篤)等、この手のジャンルでポジションを築いている本庄敬の『隠密包丁〜本日も憂いなし〜』(やはりグルメ・マンガのシーンでよく知られる花形怜が原作)は、幕末を舞台とした時代劇となっている。

 戦国時代や江戸時代のライフスタイルに着目したグルメ・マンガは決して珍しいものではないけれど、どう歴史が動くかというより時代劇ならではの平坦な日常と人情話に厚みを持たせている点が『隠密包丁〜本日も憂いなし〜』の特性であろう。

 宮村惣右衛門の本職は隠密だ。素性を隠し、一膳茶屋の料理人を勤めながら、江戸の町に不穏な動きがないかを探っている。剣の腕も立つ。料理の腕も立つ。欠点があるとするなら、人柄が良すぎること、そのために悪人であろうと斬ることができないことである。このやさしい主人公が、己に与えられた使命と持ち前の親切心から様々な事件に首を突っ込み、平和な解決に導いていく姿を『隠密包丁〜本日も憂いなし〜』は描いている。

 どう歴史が動くかは『隠密包丁〜本日も憂いなし〜』の主題ではないと先に述べたが、この3巻では若かりし日の近藤勇が出てくるし、そもそも惣右衛門の上司は「遠山の金さん」として有名な遠山景元であって、徳川家慶の難題に関わるなど、歴史を参照した上でのIFを多分に含んでいる。とはいえ、あくまでも本作の魅力は、これにて一件落着で結ばれるような時代劇の楽しさとともにある。副題に置かれた「本日も憂いなし」の平穏無事であることこそが主題となっているのである。

 それにしても、だ。作品の成り立ちから、チャンバラは必須なのだけれど、本庄の描く登場人物の骨格がしっかりとしたアクションは、なかなかの見栄えがする。これまでの作品からも明らかなように、料理の場面も実にしっかりとしている。制作には手間暇がかけられているはずなのに、構えずページをめくれてしまえるあたり、ちょうどテレビ・ドラマの時代劇を観ているみたいでもある。

・その他本庄敬に関する文章
 『ハルの肴』1巻について→こちら
 『蒼太の包丁』
  41巻について→こちら
  33巻について→こちら
  30巻について→こちら
  25巻について→こちら
  24巻について→こちら
  22巻について→こちら
  20巻について→こちら
  18巻について→こちら
  17巻について→こちら
  16巻について→こちら
  15巻について→こちら
  14巻について→こちら
  13巻について→こちら
  12巻について→こちら
  11巻について→こちら
  10巻について→こちら
  9巻について→こちら
  8巻について→こちら
  7巻について→こちら
  6巻について→こちら
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