ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2015年12月12日
 彼女が灰になる日まで (幻冬舎文庫)

 前作にあたる『彼女の倖せを祈れない』の結末が結末であっただけに(また『彼女の倖せを祈れない』以降、シリーズとは別個の小説をいくつか発表していたのもあって)てっきり、フリー・ライターである桑原銀次郎を探偵役にした物語は完結したものだと思っていたのだが、なんと続きがあった。シリーズの四作目となる『彼女が灰になる日まで』である。

 桑原銀次郎は、とある事件に関わったがために意識不明の重体に陥った。一般的なケースからすれば、半年間も昏睡状態のままでいる彼が目覚めることはないはずであった。しかし、医師である元妻が尽力し、探し当ててくれた病院が良かったのか。それとも人智を越えた何かが作用したのか。文字通り、奇跡的な回復を果たしてみせた。リハビリを経、わずかばかりの障害を残しながらも社会へ復帰するまでになったのだ。だが、自分の妻も銀次郎と同じように蘇生したのだという男が現れたのは、凶兆であったのかもしれない。「その奥さんは、今は?」「死にました。半年前に自殺したんです」そして男は、妻や銀次郎と同じ病院で同じく昏睡状態を脱した後、自殺した人間が他にもいるのだと告げる。「これは偶然でしょうか?」

 自殺は、オカルティックな原因によって連鎖的に起こったものなのではないか。だとしたら、銀次郎も同じように自殺するのではないか。男がそう話すのを信じない銀次郎だったが、信じられないがゆえに真相の究明に足を突っ込んでいくことになるのだ。物語を覆っているミステリのヴェールを簡単に一枚剥がすのであれば、根拠のない現象は根拠がないことこそを根拠に現実として強化される、ということになるだろう。

 浦賀和宏にしては(と留保をつけるが)ポピュラリティを持ったシリーズのなかでも特にサプライズの少ない作品だと思う。しかし、一作目の『彼女の血が溶けてゆく』に最も関連の深い作品でもある。または『彼女の血が溶けてゆく』に端を発したシリーズのエピローグみたいな印象を持つ。なぜなら、銀次郎と元妻である聡美の関係に『彼女の血が溶けてゆく』と同等か、それに近い変化が生じるためである。ハッピー・エンドかだって。まさか。

 ああ、我々がこうだと信じていた世界は、いとも容易く壊される。その痛切に銀次郎は再び身をさらすこととなるのだった。

・その他浦賀和宏に関する文章
 『彼女の倖せを祈れない』について→こちら
 『彼女のため生まれた』について→こちら
 『彼女の血が溶けてゆく』について→こちら
 『女王暗殺』について→こちら
 『萩原重化学工業連続殺人事件』について→こちら
 『生まれ来る子供たちのために』について→こちら
 『地球人類最後の事件』について→こちら
 『堕ちた天使と金色の悪魔』について→こちら
 『世界でいちばん醜い子供』について→こちら
 『さよなら純菜 そして、不死の怪物』について→こちら
 『八木剛士史上最大の事件』について→こちら
 『上手なミステリの書き方教えます』について→こちら
 『火事と密室と、雨男のものがたり』について→こちら
 『松浦純菜の静かな世界』について→こちら
 「三大欲求」について→こちら
 「リゲル」について→こちら
posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(2015年)
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