ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2014年09月11日
 オイ!!オバさん 10 (少年チャンピオン・コミックス)

 近年の少年マンガにおけるハーレム型のラブコメは、メジャーの『ニセコイ』とマイナーの『オイ!! オバさん』に代表されるのではないかと思っている。いや、いづみかつきの『オイ!! オバさん』にしたって、もう10巻になるのだから、世間の評価も相応に高いのだろうし、マイナーと呼ぶのは大変失礼であるかもしれない。しかし、10巻に入った今も当初の方向性をキープしながら、充実したエピソードを増やし続けている点を見、その魅力を改めて確認したところで決してバチは当たらないはずである。

 スタイルの便宜上、ハーレム型のラブコメとはいったけれど、複数のヒロイン、美少女の恋愛感情は、必ずしも主人公の少年に向いているわけではない。タイトルの『オイ!! オバさん』に隠されているのは「甥」と「叔母」の関係である。主人公である沢田透と透の祖母の娘である安宅菅子の間柄が、つまりは「甥」と「叔母」にあたるのだが、驚くべきことに二人は同い年の同級生であって、成り行きから同じ家に住み、同じ高校に通うことになるのだった。さらに菅子が元々は有名なヤンキー、レディースであったため、彼女を慕ったり、彼女と敵対したりする美少女たちが、菅子と透の高校に次々とやってくることとなる。これが結果的に、ハーレム型のラブコメと似た相関図を作品のなかに作り出しているのだ。

 また、菅子と透の間柄に近親相姦の要素は一切なく、それは完全に「叔母」と「甥」の関係に固定されている。むしろ、平凡でしかない主人公の恋愛感情、片想いが、高値の花であるような対象としているのは、中学校からの同級生、持田愛という美少女であって、菅子は透を応援し、後押しする立場に撤している。ただし、ここで話がこじれるのは、菅子は透を「甥」として溺愛しているが、透は菅子を「叔母」として鬱陶しがっており、好奇の目で見られるのを嫌がった透が二人の関係を他の生徒には伏せていることである。そのせいで愛は、ざっくばらんで親しげな透と菅子を、二人が何と言おうと、熱々のカップルだと信じて止まない。

 透の立場からすれば、彼の恋愛感情には愛を目指したルートしか存在しない。にもかかわらず、周囲の視線においては、菅子をはじめ、続々と登場してくる美少女たちとのルートが生じてしまう。もちろん、美少女のなかには透に好意を抱く者もいるにはいる。が、それらはむしろ、菅子を中心とした共同体のテーマに引き寄せられていく印象である。かつてはヤンキーであった菅子が、高校進学を機にごく普通の学園生活を望んでいくというのは、『オイ!! オバさん』にとって(透の片想いと並ぶ)もう一つの大きな柱だろう。

 ごく普通の学園生活を望んでいる菅子は、ヤンキーであったというプローフィールをなるたけ隠しておきたい。「甥」である透の保護者を気取っているときは穏やかでいられるのだったが、透以外の人間に「オバさん」と声をかけられると、途端に激昂してしまう。どんな不良をも一蹴するほどのおそろしさを見せるのだ。このような二面性はヤンキー・マンガの文法から持ってきたギャグになっている。と同時に、ヒロインが二面性だったり何かしらの秘密だったりを持っていることは、ラブコメのジャンルでも非常にオーソドックスな設定であって、今日ではツンデレ等と解釈されうるタイプも、場合によってはそこに含まれるのである。

 菅子にかぎらず、『オイ!! オバさん』における美少女のほとんどが、二面性であったり何かしらの秘密であったりを持っている。そのギャップは、ある意味で彼女たちの可愛らしさを引き立てるものとなっている。しかし、それ以上に彼女たちのエキセントリックな資質を引き出し、作品のテンションを極めてハイなポジションへ引き上げる効果を兼ねているのであって、ハーレム型のラブコメを装いつつ、ラブコメというよりはコメディとして見られるような傾向が前にきているのは、おそらく、このためでもある。

 ヤンキーをモチーフの一部としているからか、初期の頃には西森博之の影響を多く感じさせるところがあった。反面、『オイ!! オバさん』ならではの発明として挙げておきたいのは、菅子を通して透が眺められる際、しばしば入ってくる「オバさんビジョン」と形容されるカットの存在だ。要するに「甥」である透の姿を「叔母」である菅子の主観によって掴まえること(「甥」である透のイメージに「叔母」である菅子が独自の解釈を加えること)なのだが、その特定の人物をSD(スーパー・デフォルメ)仕様のマスコットであるような位相に落とし込むという手法は、エピソードを経るにつれ、菅子(正確には菅子から見られる透)以外の人物にも流用されていく。

 そもそもがデフォルメ的な絵柄をよりデフォルメすることの作用は、それをほのぼのと評してよければ、作品にほのぼのとした一面を生じさせている。所謂サービス・カット(セックス・アピール)とは異なった基準で、肩の凝らない内容に添ったヴィジュアルを補うことに成功しているのだ。

 ストーリーについて述べるなら、高校一年のスタートから高校二年のヴァレンタイン・デイ、つまり二月にきている。卒業まで残すは一年、透の片想いは一進一退といったところか。ただし、この10巻には、おお、お前もいくらか立派になったね、と透の成長をうかがわせるエピソードが入っている。菅子に関しては、クライマックス近くにヤンキー絡みの大事件がもう一回ぐらい用意されているんじゃないかな。たぶん、タイトルにかけられた駄洒落のワン・アイディアではじまったマンガなのだと思うが、そこに足し算の工夫が重なっている。美少女のみならず、ユニークな人物の数々がワキに揃えられているのはでかい。


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