ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2014年09月06日
 キミに小さな嘘ひとつ(2) (プリンセス・コミックス プチ・プリ)

 活動の場を秋田書店(『プチプリンセス』)に移し、いくらか連載のペースを落とした吉岡李々子だが、それと同時に作風のデリケートでフラジャイルなニュアンス(といおうかドロドロとしたメロドラマ性といおうか)がより顕著になったかな、と『キミに小さな嘘ひとつ』の1巻の時点では思わされたのである。が、この2巻に入り、学園生活をピュアラブルなロマンスとともに切り取る手法が前に出てき、ある種の悲劇をベースにしていながらも単に暗いお話になるのとはまた違った展開を見せている。

 野村千星(ちせ)と明星(あかり)は、見た目はそっくり、でも性格は正反対であるような双子の姉妹だった。消極的で不器用な千星に対し、積極的で人当たりの良い明星は男子に特に人気がある。それが千星のコンプレックスにもなっている。二人に共通しているのは、幼馴染みである宮本昌行への恋心だ。だが、中学三年の春の終わり、二人の誕生日に明星が交通事故で他界してしまう。それからしばらくして、宮本は家族と一緒に海外へと渡っていき、一年が経った。千星は高校生になった。一人暮らしをはじめた。もう明星も宮本もいない。果たして同じマンションの隣人、里見映美との出会いは、千星にとって新しいチャプターを知らせるものであったのか。クラスメイトでもある彼は千星のことを以前から知っているかのように〈1年くらい前かな オレの目の前で車に轢かれたあの女の子かと思ったんだ〉と告げた。

 タイトルである『キミに小さな嘘ひとつ』の嘘とは、おそらく、事故の直前、電話越しに明星が千星に伝えた言葉を大本としている。それは明星が宮本に告白されたというものである。しかし、実際には宮本は千星に告白するつもりでいた。それを知ってしまった悔しさのために明星は千星に嘘をついたのだ。これは後に撤回されたとしたなら、他愛のない嘘でしかない。だが、撤回される機会を永遠に失ってしまったがゆえに千星のなかに深く残されていく。決して覆ることのない嘘は、場合によって真実と同然に通用してしまうことがある。当然、明星の死は重い。その重みが千星と宮本のあいだに横たわる。他方、小さな嘘が真実と同然に通用しているとき、(ちょっとおかしな日本語になってしまうけれど)本当の真実は、それが真実であるとは証明されがたい。宮本の言葉や態度がどうであれ、それは結果的に千星には真実かどうかの区別がつかないものとなるよりほかないのである。

 明星と宮本、親密であったはずの人間が去っていった千星が、里見との出会いを通じ、いかに変化していくか。ここに『キミに小さな嘘ひとつ』の主題を見つけることができるだろう。明星が亡くなって以来、千星が抱き続けている不安は、宮本をはじめとした他人をどう受け入れたらいいのかという認識の問題からやってきており、それは明星ほどの価値が自分にはないのではないか(自分は他人に受け入れられるのか)という思いなしと根底で一致している。そうした不安に差し伸べられてくる手の役割が、つまりは里見の存在なのであった。

 先に述べた通り、この2巻では、学園生活をピュアラブルなロマンスとともに切り取る手法が前に出てきている。千星に関心を持った里見と次第に好意を寄せてくる里見に戸惑った千星の二人の姿が、二人を取り巻く友人たちの姿とともに高校一年の若々しい風景のなかに描かれているのだ。千星と宮本の再会は確かに一つのハイライトだろう。しかし、それが重要なのは、宮本という過去の影を参照することで千星と里見の関係が次の段階に進んでいくような展開となっている点なのである。宮本が本当は(明星ではなく)千星を好きだった。そのことを千星や宮本と同じ中学だった井田から聞いた里見の言動に注目されたい。里見は、そのことを千星が知らない秘密というのであれば、その秘密を千星には黙っておくようにと井田に頼むのだ。これは明星の小さな嘘を再び真実として補強することにほかならないし、明星が発したはずの嘘が里見の嘘としてすり替わることをも意味している。

 裏を返すなら、千星と里見の関係は、あくまでも嘘という土台を隠蔽しているがゆえにピュアラブルなロマンスのように成り立っている。里見が、千星と宮本の再会にやきもきしたり、弱気になったりするのは可愛い。里見と千星とが、お互いの気持ちに触れ合い、ようやくカップルとなるシーンは良いシーンである。ただし、それは嘘が嘘として質されないかぎりにおいて、にすぎない。『キミに小さな嘘ひとつ』の物語は、細部に(吉岡李々子ならではの)いびつな軋みを作っている。このままハッピー・エンドにいくとは思われない。

・その他吉岡李々子に関する文章
 『月と太陽のピース』
  3巻について→こちら
  1巻について→こちら
 『白のエデン』
  2巻について→こちら  
  1巻について→こちら
 『彼はトモダチ』
  7巻について→こちら
  6巻について→こちら
  4巻について→こちら
  3巻について→こちら
  1巻について→こちら
 『99%カカオ』について→こちら


この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

この記事へのトラックバック
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。