ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2014年08月25日
 はじめましてのシルヴァンドル (ヤングジャンプコミックス)

『恋愛遊星』や『ほしのうえでめぐる』で魅力的なSFラブコメを描き出した倉橋ユウスだが、『はじめましてのシルヴァンドル』もやはり、それらと同様、オムニバスで編まれるライト・ポップなファンタジーとロマンスになっている。個人レベルの葛藤だったりが地球規模の危機を左右してしまう式の所謂セカイ系に通じるマナーを汲んだところもあるにはせよ、総体的な印象はむしろ、スペース・オペラを由来としているかのようなスケールの大きい物語=SFと日常の小さな風景をベースにしたミニマリズム=ラブコメの並列化、ミックスという80年代、90年代の良質なオリジナル・ヴィデオ・アニメ(OVA)によく見かけられたものと近い。

 宇宙を渡り歩く旅の商人、「シルヴァンドル」と呼ばれるその少女が地球に降り立った目的は何か。シルヴァンドルは悩みを抱えた人々に出会うと不可思議なグッズを無理矢理にでもセールスしようとするのであった。そこで繰り広げられる様々な騒動を、つまり『はじめましてのシルヴァンドル』はオムニバスのストーリーに編んでいくのである。正直なところ、作者のものとしては『ほしのうえでめぐる』の方を強く薦めるのだけれど、もちろん本作にも倉橋ユウスというマンガ家のエッセンスがたっぷり詰まっているし、『はじめましてのシルヴァンドル』で特筆すべき点を挙げるとすれば、それはヒロインにあたるシルヴァンドルの造形になるだろう。端的に、可愛らしい。イノセントに見られるがゆえにチャーミングでありうるエイリアンのイメージは、古くは『うる星やつら』から近年では『侵略!イカ娘』に至るまで、ある種の様式を思わせる。訴求力がある。絵柄を含め、そのような類型とは決して無縁ではないながらも、独自のアレンジを加えることで作品の方向性にきちんとピントの合ったデザインへと引き寄せているのだ。

 シルヴァンドルの可愛らしさは、実は「シルヴァンドル」とは果たして何者かという問いに直結している。既に述べた通り、旅の商人である。作中ではこういわれている。〈この星には宇宙人が来ているのだ 目的は侵略ではなく モノを売る仕事 役に立つ物ばかりだ〉と。しかし、設定のレベルではなく、テーマのレベルで作品をとらえようとするとき、そのイノセントに見られるがゆえにチャーミングでありうる造形は、「天使」あるいは「魔女」であるような存在の比喩となっていることがわかる。また、作中ではこうもいわれている。〈どこから来たのか誰も知らんが どの星でも目撃されている あとになって学者どもはアレが 神が… 文明に遣わせた最後のテストだとぬかしていた〉と。おそらく、「シルヴァンドル」のセールスに象徴されているのは、なんらかの危機を前にした人間が挑むべき選択であり代償であり試練にほかならない。さらに付言するなら、たとえば『笑ゥせぇるすまん』の邪悪さが喪黒福造のおどろおどろしい造形からやってきているように、『はじめましてのシルヴァンドル』におけるポジティヴなフィーリングは、シルヴァンドルの可愛らしさからやってきているのである。

 シルヴァンドルは当然のこと、彼女と関わっていく登場人物たちの表情や、そのやりとりにもユーモラスと言い換えられるような親しみやすさがある。ポジティヴでいてユーモラスなパート=ラブコメとシリアスでいてエモーショナルなドラマ=SFとが、倉橋ユウスの筆致においては見事に調和してしまう。このことの大変優れて魅力的であることを『はじめましてのシルヴァンドル』は改めて確認させてくれる。


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