
やあ、昂ぶるぞ、これは。何よりもまず、下位打線のけっして諦めないがんばりが、やたらぐっとくるところなのだけれども、それ以上の興奮がその後にもたらされることになろうとは、ああほんとうに、こちらの期待を遙かに上回るクライマックスぶりであることよ(詠嘆)。佐野隆の『打撃王(リトルスラッガー)凜』9巻は、緑北シニアのエース中根雄翔の放る「七色の変化球」によって、完璧なまでに攻撃の手立てを封じられ、じりじりと追い詰められてしまった緑南のナインたちが、しかしようやく攻略の糸口を掴み、そしてついに同点へと追いつく、と、ここまでが十分な見せ場となっているのに、じつはここからだ、ここからの展開がすげえことになっていて、おかしくなるほどにテンションが高まってしまう。投げるやっちんと打つ寺嶋の対決、打つやっちんと投げる中根の対決、見ているのも痛々しいぐらいのやっちんの意地、それらを通じて、やがて打席に立つ凜の目に入ってくるのは、奇跡を導く一筋の光であった。〈いつだってやっちんは僕を照らす太陽の光だった (略) 僕にとって永遠の光――… / そのやっちんが目の前にいる限り / たとえ僕の視界から球(ボール)が消えても / 僕の目の前から光が消える事は絶対にないっっ!!!〉。ここだ。ここに、このマンガのすべてが集約されているといっても過言ではない。誰かを信じる、信じられる、たったそれだけのことで、精神が理屈を凌駕し、努力が才能を越え、不可能が可能になる。フィクションの世界のすばらしさとは、つまり、そういうことなんだよな、と思う。これで緑北との試合に結着がついたのかな。今後どのように話が進んでいくのかはわからないけれど、すくなくともこの9巻で寄越された感動からは、自然と涙が湧く。
8巻について→こちら
7巻について→こちら
6巻について→こちら
5巻について→こちら
4巻について→こちら