ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2007年04月12日
 世界でいちばん醜い子供

 八木剛士のシリーズは、もしかすると浦賀和宏流のラブコメ(ラヴコメ)なのではないか、というのは以前から思っていたことではあるが、意外とそのとおりなのかもしれない。シリーズ最新作『世界でいちばん醜い子供』では、これまでその内面があからさまに明示されなかったため、当面の主人公であった八木剛士を小悪魔的に翻弄する、いわばヒロインの役をつとめていた松浦純菜が語り手に置かれ、そうすることで物語の見え方に微妙な変化が加えられている。当人の与り知らぬ因果によって、謎の組織に命を狙われ、いくつもの怪事件に関わってきた剛士であったが、しかし、あるときを境に、唯一自分のことを受け入れてくれた存在の純菜から拒否されてしまい、そのことをきっかけに覚醒し、ついに自分を迫害してきた人間たちへの復讐を果たす。というのが、前エピソード『さよなら純菜 そして、不死の怪物』までの、だいたいの筋で、いやあ、やけに血なまぐさいじゃないか、といった具合なのだけれども、それがここでは、ほんとうは両想いのくせして、とんだ勘違いによってすれ違い、あわやトンビに油揚げをさらわれるかという、あの、古典的ですらある恋の鞘当てへと、転調する。ああ、南部の、見事なまでの噛ませ犬ぶりであることよ。噛ませ犬がいい奴だというのも、この手の話におけるセオリーであろう。とはいえ、もちろん、この作者のことだから、劣等感があるゆえに人間は妄想するアシである、と言わんばかりの自意識をぐるぐるさせる語り口は、手放されていない。その語り口が、小説そのものの顛末に深く関わっている点も、然りである。それにしても、だ。ここまで来たら、純菜と剛士には是非ともうまくいって欲しい、と思う。が、しかし、まあ、どうか。両者は一種のシンメトリーであり、その精神の傾きは、とてもよく似ている。

 『さよなら純菜 そして、不死の怪物』について→こちら
 『八木剛士史上最大の事件』について→こちら
 『上手なミステリの書き方教えます』について→こちら
 『火事と密室と、雨男のものがたり』について→こちら
 『松浦純菜の静かな世界』について→こちら

 「リゲル」について→こちら
posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(1) | 読書(07年)
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浦賀和宏『世界でいちばん醜い子供』(講談社ノベルス)
Excerpt: 浦賀和宏『世界でいちばん醜い子供』を読んだ。 ここまでくると、書名にシリーズ名と連番を付すべきじゃないかと思う。なにしろ、シリーズモノだけど単体でも楽しめる…みたいな配慮は全然ない。『松浦純菜の静かな..
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Tracked: 2007-04-16 21:28