ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2013年12月05日
 楔-kusabi-(初回限定盤1)(DVD付) 楔-kusabi-(初回限定盤2)(DVD付) 楔-kusabi-(通常盤)

 なぜ〈NO PAIN〉と叫び、「NO MORE PAIN」と願ったはずなのに、またもや受難の道を進まなければならないのか。警告を忘れ、どこまでも高い空を目指していったイカロスの墜落と神話とが、その運命に内蔵されているのか。それとも、幾多の傷を負おうと立ち上がるヒロイックなイメージが何より似つかわしいからなのか。受難とはもちろん、グループにとっての受難であって、彼らを求めるファンにとっての受難にほかならない。そんなもの決して望んでやしないのだったが、しかし、それが『楔-kusabi-』の通常盤に収録された「PHOENIX」における次のような一節を、KAT-TUNというエピック(叙事詩)にぴったりのきらめきとしてしまう。皮肉なことに。そう、〈すべてに理由がある〉〈何度も蘇ってみせるよ〉と告げるのであって、〈WE DO NOT FEAR さあ 共に羽搏(はばた)け 終わりのない楽園へ〉と力強く、〈這い上がれ 灼熱の夜明けへ〉と歌い、そして〈ルールの無い ルールを縛りつけていく〉のである。

 5人編成による楽曲を含まない『楔-kusabi-』の制作期間がどれぐらいだったのかは不明だし、事前にミニ・アルバムとアナウンスされていたことから急ごしらえであったのかもしれないが、初回限定盤1、初回限定盤2、通常盤の3枚を合わせた(「楔-kusabi-」と「GIMME LUV」のカラオケ・ヴァージョンは除く)全10曲の内容は、それでも2012年の『CHAIN』に続く作品としてカウントされるべきものだろう。田中くん脱退の経緯が経緯だからなのか。あるいは4人編成としての真新しいスタートを強調するためか。既発のシングルをあえて外してきた点は、むしろポジティヴに評価されたい。初回限定盤1に付属している「楔-kusabi-」のヴィデオ・クリップのメイキングで、中丸くんがインタビューに答え、「メンバーが4人だとセンターが発生しない」という発言をしているのは重要である。おそらくはそれが『楔-kusabi-』の、そして『楔-kusabi-』以降のKAT-TUNに対し、メンバー自身が想定しているに違いないヴィジョンなのだと思う。

 振り返るなら、オリジナルである6人編成のKAT-TUNには、奇跡のようなシンメトリーが存在していた。しかし、それは失われた。5人編成の第2期とでもすべきKAT-TUNでは、シングルなどのジャケットを見る限り、亀梨くんをセンターに据える式のプランに基づくものがあったと推測される。だが、それも失われてしまった。たぶん中丸くんの発言は、かくしてもたらされた「メンバーが4人だとセンターが発生しない」状況を、単なる引き算の数式ではなく、現在のKAT-TUNにとってプラスαとなるような逆転の領域にまで持っていかなければならないことを意図しており、つまりはその解答例こそが『楔-kusabi-』といえるのだ。

 タイトル・トラックである「楔-kusabi」は、なるほど、最近のシングルの傾向を汲みながら、ミステリアスで切ないというKAT-TUNの一面を改めて認識させるナンバーとなっている。が、打ち込みの硬いリズム、ダンサブルな重低音、メタリックなギターのリフ、ストリングスとシンフォニックなアレンジ、そこにナイーヴでいて扇情的なヴォーカルのメロディが組み合わさり、溢れてくる過剰なまでのロマンティシズム、ああ、これなんだよな、KAT-TUNだけが与えられた天性の資質とパフォーマンスは、と実感させてくれる根拠に関しては、他の楽曲の方に大きく表れている。

 2曲目の「GIMME LUV」のヘヴィなうねりはどうだ。ヴォーカルの線の細さは(良くも悪くも)KAT-TUNの特徴の一つに挙げられる。赤西くんのパワフルな声量、田中くんのドスが効いたラップといった飛び道具を頼れなくなった今、本格派のラウド・ロックやブラック・ミュージックをベースにしたとき、それは弱点になりかねない。けれど、その線の細さが異様にドラマ性が高いグルーヴを前に鮮やかな意味を持ちはじめる。悲壮であることの本質に備わった美しさと激しさとをダイレクトにしているのだ。たとえば「与えたり」「癒し合ったり」を題目に置くようなハッピーでいて優等生ぶったラヴ・ソングにはない儚さがある。否定することも否定されることも厭わず、独善的であるほどにぐいぐい「求めてくる」「迫ってくる」焦燥がある。衝動がある。アグレッシヴさがある。この押しの強さはもちろん、KAT-TUNの過去と現在とを一つのキャリアのなかで直結させるキーである。

 久々に中丸くんのヒューマン・ビート・ボックスを前面にフィーチュアした3曲目の「ON & ON」には、「SIGNAL」や「YOU」の頃を思い出させる爽やかさがあるし、アップ・テンポの中盤にEDM調のブレイクが入ってくる4曲目の「FIRE and ICE」は、しかし、それでもトレンドであるよりはクラシックであるような展開とリズムのセンスとが、ユニゾンで盛り上がるコーラスに〈例え絶対零度の現実も BURN IT DOWN HARDER さあ在るがまま〉〈鼓動の限り 燃やせFIRE and ICE〉という歌詞の通り、あたかも形而上へまで届きそうなパッションをもたらしているのだった。

 以上の楽曲は、初回限定盤1、初回限定盤2、通常盤に共通しているが、初回限定盤1の6曲目に収められた上田くんの「MONSTER NIGHT」は、『楔-kusabi-』におけるメンバー唯一のソロ・ナンバーであって、かつての「MARIE ANTOINETTE」や「ニートまん」と同様、洒落っ気と茶目っ気がたっぷりの仕上がりである。コンセプチュアルなヴィジュアル系、あるいはゴシック趣味とニコニコ動画等のネット・カルチャーやアニメ・ソングに散見されるシアトリカルなアプローチとを自由に横断し、ミックスしてみせたそのアプローチは、ジャニーズの枠内に限らず、非常に独特なものだ。

 ああ、そして通常盤の5曲目に入っている「BLESS」と7曲目の(事実上のラスト・ナンバーにあたる)「PHOENIX」は、紛れもないハイライトである。とりわけファルセットのヴォーカルに堂々と挑んだ前者は、メンバー4人の個性がこれまでのキャリアにはなかった色彩となって、混じり、淡い季節のエモーションをブライトに描き出す。黄昏にも似た叙情があるけれど、バラードというのではない。ポップにはじけていくクライマックスと軽やかなステップがある。作詞を担当したRUCCAがどのようなオーダーを受けたのかは知らないものの、〈信号(シグナル)〉であったり〈僕らの街〉であったり〈FACE〉であったり〈約束〉であったり、過去のタイトルの引用であるかのようなフレーズが随所に挟み込まれているのは意図的であろう。しかして、亀梨くんが裏声で歌う〈時は過ぎて〉〈6月の或る晴れた午後に SO, I'M MISSING YOU〉に刻まれた別離ばかりか、「6」という数字でさえも自然と象徴性を帯びてしまうのだったが、単なるセンティメントが「BLESS」を愛おしくさせているわけではない。どれだけのセンティメントを抱えようと新しい一歩を踏み出していくよ。やわらかなメロディは伸び、雨の止んだ向こうに開けた景色の眩しさを想像させる。

 高く舞い上がるための翼がまだある。結果はどうであれ、自分(自分たち)はそうと信じられる。少なくともこれを希望と呼ぶことができる。「PHOENIX」は、正しく不死鳥のストーリーを再現している。音楽的には『CHAIN』のラスト・ナンバーであった「SOLDIER」の第2章みたいでもある。オーケストレーションはリアリティを度外視したスケールを生み出し、打ち込みの硬いリズムはまるで勇者を讃えるマーチのごとくである。無限のファンタジーがある。感動的ですらある。それにしてもファンに向かって自身を戦士や不死鳥に喩えずにいられないアイドルとは一体何なのだ。とんでもないことになっているのは間違いない。その存在が、活動が、もはやエピック(叙事詩)だと述べるしかない。トゥー・マッチだろうか。だが、トゥー・マッチであるがゆえに〈WE DO NOT FEARさあ 共に燃えゆけ 命叫ぶ鳥たちよ〉という声に熱がこもる。そしてそれは〈撒き散らせ 閃光の世界へ〉と〈ルールの無い ルールを降り注いでいく〉のに相応しい。

・その他KAT-TUNに関する文章
 『FACE to Face』について→こちら
 「WHITE」について→こちら
 「CHANGE UR WORLD」について→こちら
 『NO MORE PAIИ』について→こちら
 「Going!」について→こちら
 「Love yourself 〜君が嫌いな君が好き〜」について→こちら
 『Break the Records -by you & for you-』について→こちら
 「RESCUE」について→こちら
 「ONE DROP」について→こちら
 「White X'mas」について→こちら
 『KAT-TUN III - QUEEN OF PIRATES』について→こちら
 「DON’T U EVER STOP」について→こちら
 「LIPS」について→こちら
 「喜びの歌」について→こちら
 『Cartoon KAT-TUN II You』について→こちら
 『Live of KAT-TUN “Real Face”』DVDについて→こちら
 「REAL FACE」について→こちら

 DVD『KAT-TUN LIVE Break the Records』について→こちら
 DVD『KAT-TUN LIVE TOUR 2008 QUEEN OF PIRATES』について→こちら

 コンサート『KAT-TUN LIVE TOUR 2012 CHAIN』(2012年4月20日・東京ドーム)について→こちら
 コンサート『KAT-TUN LIVE TOUR 2010 PART2:WORLD BIG TOUR』(2010年・東京ドーム)
  7月24日の公演について→こちら
  7月17日の公演について→こちら
 コンサート『KAT-TUN LIVE TOUR 2010 公開リハーサル』(4月28日・さいたまスーパーアリーナ)について→こちら
 コンサート『不滅の10日間ライブ KAT-TUN TOKYO DOME 2009』(09年・東京ドーム)
  6月15日の公演について→こちら
  5月22日の公演について→こちら
  5月18日の公演について→こちら 
 コンサート『KAT-TUN LIVE TOUR 2008 QUEEN OF PIRATES』(08年8月5日・東京ドーム)について→こちら
posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(0) | 音楽(2013)
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