ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2013年10月09日
 ハルの肴(1) (ニチブンコミックス)

 都合上、掲載誌の休刊で連載の止まった『蒼太の包丁』の物語を全39巻で完結したと見ていいかどうか(もしかしたらどこかで続きが描かれるのではないか)判断に迷うところだが、末田雄一郎(原作)と本庄敬(作画)の同コンビによる新作『ハルの肴』には『蒼太の包丁』の終盤において中心的であったモチーフが流れてきているようにも思える。それはあの、北海道から東京に出てきた若者が、老舗であったり、飲食業であったり、そうした場所で働く人々と関わり合うことで自分の進路を新発見するという箇所である。所謂自分探しのヴァリエーションにあたるかもしれないものだ。

 たとえば、『ハルの肴』の主人公である春野ハルのプロフィール(グラフィックの専門学校に通っていたが、話の成り行きから老舗で料理人の見習いとなる)を、『蒼太の包丁』の終盤で登場してきた乙部孝太郎のプロフィール(動物園の元飼育係だったが、話の成り行きから老舗で料理人の見習いとなる)に置き換えてみるとわかりやすい。ともに北海道出身であり、そもそも料理人になるつもりはまったくなかった。コトの経緯は別なれど、田舎から東京に出てきたことになっている点も同様であろう。もちろん、『蒼太の包丁』の乙部は男性であって、『ハルの肴』のハルは女性なのだから、性別は入れ替えられているし、ハルが働く「大門」は老舗は老舗でも両国の大衆居酒屋であり、乙部が勤めている「富み久」のような銀座の名店ではない等々、基本の設定はだいぶ違う。いうまでもなく、乙部があくまでもワキ役だったのに対して、ハルは作品全体の主人公である以上、両者の役割は決定的に異なっているのだが、しかし、世間知らずで消極的な若者が、周囲に見守られながら、助けられながら、成長し、見聞を広めていく。こうしたパターンを揃って踏襲しているのである。

 もしかしたらそれを『蒼太の包丁』の主人公である蒼太の、そのオルタナティヴなイメージだとすることもできる。ただし、あらかじめ料理人を志していた蒼太のガッツ、真の強さをそのまま、時間軸のタテ糸として物語を編んでいたのが『蒼太の包丁』だったとしたら、『ハルの肴』の場合、ハルの人柄の良さは確かにヒロインに相応しい資格ではあるものの、時間軸のタテ糸で物語を読むとき、どうも頼りない。果たしてそれが作品の構造によって要請されているのか。それとも反対に作品の構造をこうと規定しているのか。一概には言い切れない。けれども、おそらく、今後、さまざまなエピソードのベースとなってくるのは、自分探しの不確かさを補うような関係性のヨコ糸なのではないかと思われる。

 『蒼太の包丁』に関する文章
  33巻について→こちら
  30巻について→こちら
  25巻について→こちら
  24巻について→こちら
  22巻について→こちら
  20巻について→こちら
  18巻について→こちら
  17巻について→こちら
  16巻について→こちら
  15巻について→こちら
  14巻について→こちら
  13巻について→こちら
  12巻について→こちら
  11巻について→こちら
  10巻について→こちら
  9巻について→こちら
  8巻について→こちら
  7巻について→こちら
  6巻について→こちら
posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(0) | マンガ(2013)
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