ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2007年04月02日
 チナミの風景

 野本明照が『IKKI』誌上に発表していたシリーズが、ようやく『チナミの風景』として一冊にまとまった。〈なんだか知らないけど、この町は――変な人で、いっぱいだ〉。そうして常識からしたら一風変わった人びととの交流を点にして、好奇心旺盛な小学生のチナミが、それまでとは違った世界の見方に気づく日々を線に結んでゆくのだが、ささやかなファンタジーといえる魔法が、描かれるシーンの各所にかけられており、ワン・エピソードを読み終えるたび、すこし、幸福な感傷に浸る。いかにも『IKKI』っぽい(どこか松本大洋とか松永豊和とかを彷彿とさせる)絵柄と話の筋とはいえ、けっして類型や亜流にとどまらない魅力を湛えていると思う。さて。先ほど、幸福な感傷、と述べた。それがどこからやってくるのか、といえば、作中で変人たちを変人たらしめているのは、要するに、彼らが一種イノセントな存在として顕在化されているからであり、そのことが、少女の成長(自立)に重ね合わせられることで、やがて失われる(すでに失われた)ものとしても暗示されているためである。いや、ここに登場している困った人たちのいくらかは、おそらく、世間一般の価値観とは異なる、彼らなりのセンスのまま、変わることなく生きてゆくことだろう。が、しかし、不可侵であるほどに真摯な彼らに対し、いわば観察者にあたる主人公のチナミには、揺らぎがある。その揺らぎのあるおかげで、それまで知らなかった風景に出会うことになるのだけれども、ならば同様に、それまで見えていたものを、いつか、忘れてしまうことだってあるかもしれない。つまり、そのような視線のほうにおける、イノセンスの損なわれる可能性が、こちらの胸に、ちいさな棘となって抜けない、過去の経験のうちにある甘やかな痛みを呼び覚ますのであった。
posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(0) | マンガ(07年)
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