ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2013年04月14日
 きょうのキラ君(5) (講談社コミックス別冊フレンド)

 彼女は〈キラ君にもらった言葉をくりかえす〉それはつまり〈オレの生きる意味はニノンなんだ〉ということである。前作『近キョリ恋愛』でハイ・テンションなラブコメに作風を振り切ったみきもと凜が『きょうのキラ君』に描いているのは、所謂難病もののヴァリエーションだといえる。意中の人が余命いくばくもない。あらかじめ定められたリミットをダシに切ないラヴ・ストーリーが編まれていくのだった。と、こう説明したら、いかにも辛気くさい内容に思われてしまうかもしれないけれど、ヒロインであるニノ(岡村ニノン)のパーソナリティにちょっとしたエキセントリックさを与え、さらには先生(ニノが飼っているオウム、人の思考や言語を理解する)というコミック・リリーフ兼、これはファンタジーですよ、と示すためのサインを用意することで、全体の色合いを、決して暗くはなく、むしろ明るいものとして輝かせている。

 イケメンさんで人気者、普段はチャラい性格のキラ(吉良ゆいじ)だが、実は学校の誰にも、友人にも言えない秘密があった。それは病気のせいで間もなく死ぬということ。その秘密がまさか、家が隣同士だけれど、キラとは対照的にクラスでは浮いた存在のニノに知られてしまう。自分の悩みを受け入れてくれた彼女にキラが心を開いていくのは当然の成り行きであったろう。周囲から見ればギャップの大きな二人は、しかし次第に気持ちを通わせ合うのだった。以上がこれまでのあらましであって、ついに恋人同士となったニノとキラが、ごく普通のカップルとして、すれ違いや嫉妬を通じ、雨降って地固まるかのような様子を、この5巻は追っている。

 病院でのキラの知り合いである美少女、レイ(矢作零)の登場は、そしてそれがヒロインの恋路に対し、牽制の役割を果たしているというのは、もちろん、難病もの云々は関係なく、こうした少女マンガのセオリーにほかならない。なぜ自分が大切な人間から選ばれたのか。相手にとって本当に自分は相応しいのか。交際の初期段階おいて、非常に普遍的なジレンマを、それまで奥手に過ごしてきたニノはようやく経験することとなる。先に、ごく普通のカップルとして、と述べたのは、そのような意味で、である。結局のところ、ニノがキラを選ばなければならなかったように、キラもまたニノを選ばなければならなかった。このことが、そこであらためて、両者の実感を伴い、確認される。ある場合には、人はそうした出会いを運命と呼ぶ。運命と呼ばれるものの幸福な印象が、少なくとも現時点では、本来湿っぽくなりそうなラヴ・ストーリーの、その色合いを明るく輝かせているのである。

 ニノとキラのラヴ・ストーリーに焦点が絞られているためか、新しく出てきたレイを含めても、登場人物は極めて少ない。裏を返すなら、キー・パーソンしか見当たらないということでもある。友人であるキラに憧れ、ニノにも惹かれながら、屈折した心境から二人に厳しく当たる矢部も、やはりキー・パーソンの一人だろう。基本的には嫌な奴だが、憎めないタイプであるように描かれている。今後、キラの病状が深刻になっていったとき、ケータイ小説の『恋空』になぞらえていうのであれば、たぶん、ヒロに近いポジションを担っていくことになるのではないかと思う。が、とりあえずはニノとキラのあいだに割り込み、三角関係の火種となるような立場にある。

 最初に書いた通り、所謂難病もののヴァリエーションといえる。ささいなワン・シーンやセリフ回しが、しばしば過剰に響く。思わず涙を誘われたりしてしまうのは、やがて喪われてしまう存在が物語の中心に置かれているためである。無論、奇跡的に難病を克服する可能性があるにはあるものの、フィクションの力学上、どうしたって喪われていく対象としてキラは見られてしまうし、その予感は『きょうのキラ君』に付せられたエモーションから絶対に抜き取ることのできない重要なファクターだ。けれど、もう一度繰り返していうのだったが、作品の色合いは決して暗くはない。それは「死」を介在させながら、しかしあくまでも「恋愛」によって結びついた少女と少年の眩しさを、ユーモラスなやりとりを交えつつ、とってもチャーミングに導き出せているがゆえに、であろう。

・その他みきもと凜に関する文章
 『近キョリ恋愛』
  6巻について→こちら
  5巻について→こちら
  3巻について→こちら
  2巻について→こちら
  1巻について→こちら
 『17歳』について→こちら 
 『水曜日のライオン』について→こちら
 『タイヨウのうた』(原案・板東賢治)について→こちら
posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(0) | マンガ(2013)
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

この記事へのトラックバック