ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2005年05月10日
 『新潮』6月号掲載。この作家のものはほとんど読んでいて(全部読んでいると思うが、抜けがあるかもしれない)、過去にはけっこうぶーぶーと言ったが、しかし、ここ数作の出来にはちょっと注目気味である。『群像』5月号に掲載された短編「浮いたり沈んだり」は、眼鏡を失くしてしまい、メガネメガネといっているうちに、思わぬところから眼鏡が現れ、メガネ最高というオチがつくだけの小説だったけれども、じつはかなりのお気に入りなのだった。そして、この小説もよかったのである。生田紗代は、書き続けることで、つねに上昇の線を描くようにして、成長し続けている作家であると思う。

 物語は、25歳の女性である「私」=「亜紀」が、郊外のシネコンに映画を観に行った際、そこで不意に、子供の頃に迷子になった感覚を思い出す、そのようなところから幕を開ける。亜紀には父と兄がいる。父親が実家に一人で生活を送っているのは、亜紀と兄が一人暮らしをはじめたからというのもあるが、母親が、亜紀が高校三年のときに家を出て行ったというのもあるのだった。現在、亜紀の記憶のなかで、母親の存在は、けっして良いものではない。懐かしさは嫌悪感によって除去されている。その母親が父と寄りを戻したがっているという話を聞く。それをきっかけにして起る混乱を軸にして、話は進んでゆく。

 基本的には、血が通っていながらも、同性であることによって軋轢を生じさせる、そういう母娘の関係性を描いているようだ。が、読み手の共感をやさしく誘い込むのは、亜紀と亜紀の恋人である浩美とのやりとりや、兄の前ではどうも子供じみてしまう亜紀の振る舞いであったりするのだろう。ここらへん、つまり枝葉の部分がしっかりと整えられているため、作品の中枢が、ちょうど木の幹のようなずっしりとした重さを備えるに至っている。亜紀は揺れるバスのなかで死にたいと思う。そうした夢想は、日常の他愛もない軽やかさが存在していることによって、一段階沈んだところに、自然とリアルな情景として映えているのだ。
 
 以前、友達がこの英国のバンドのことを、「ナイーブな絶叫系」と命名していたことを思い出す。何だそれ、とみんなで笑った。ナイーブなのに、絶叫しちゃってるんだ? いや、ナイーブだからこそ絶叫してるんだよ。そういや最近多いよね。そういうバンド。僕たちはこんなに苦しんだっていう。

 ポップ・ミュージックに関する、こういう書かれ方、そこに横たわる手触りも以前にはなかったものじゃないだろうか。たぶん、それは、対象との距離のとり方における上達と、なによりも深く結びついている。生田には、ぼちぼち本格的な恋愛小説を書いて欲しいな、それはきっと、とてもとても良いものになりそうな感じがする。

 新潮社のページで冒頭読めます→こちら

 『タイムカプセル』についての文章→こちら
 『十八階ヴィジョン』についての文章→こちら
 『ぬかるみに注意』についての文章は→こちら


posted by もりた | Comment(4) | TrackBack(0) | 読書。
この記事へのコメント
ほう、プッシュしてますね。これから読んでみます。
ところで『群像』の「さよなら アメリカ」を読んでぶーぶー言っているのですが、どうでしたか。もうひとつの受賞作は読む気すらしません。
Posted by 佐藤克成 at 2005年05月11日 00:03
袋を被りながら読まないと、書かれていることは理解できないらしいよ。比喩的に>「さよなら アメリカ」

というか、どうして作者の無神経さに読み手が歩調を合わせなければならないのか、というのは僕の理解を超えていますが。という意味では、もう一個のほうがまだ読みやすかった。

ただ大衆嫌悪みたいなのが、両者に、どころか批評部門の作品にも通底してあって、それが『群像』的な文学なのかどうかはしらないけれども、お前ら何様だよ、って、ふつうに思った。
Posted by もりた at 2005年05月11日 09:27
こんばんは。
今日僕も「まぼろし」読みましたよ。
一気に読んじゃいました。
生田紗代さん、文藝賞を受賞した時から
好きなんですよね。
「タイムカプセル」もよかったな。
最近はいろんな雑誌に掲載されてますよね〜。
早く単行本化されて欲しいな。
Posted by 奈良 at 2005年06月01日 23:52
奈良さん、どうもです。
「まぼろし」よかったですね。
生田紗代はデビューんときから、家族の関係性みたいなものがひとつ(メインテーマではないのかもしれないけれど)作品の補助線として引かれているような気がして、そこいらへんが個性かな、と思っています。
そっからの成長があり、ここ最近はずいぶんと侮れないところまできてる感じがするので、はやく単行本化されるといいですね。
Posted by もりた at 2005年06月02日 08:57
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