
すこし前まで、きたがわ翔が『小説すばる』に連載していた(現在は終了している)エッセイふうのマンガは、80年代から90年代前半にかけての、あるマンガ史にとっての生きた資料なので、どっかでまとまってくれると、うれしい。そのなかで幾度か述べられていることからわかるように、きたがわは、先行する作家や作品を几帳面に意識してしまうマンガ家であり、この『刑事が一匹』最終7巻のカバーに付せられているあとがきで、ラスト・エピソードとなる「赤い記憶編」は、『トーマの心臓』からの影響が仄めかされているけれど、えーどこがあ、という一方で、たしかにその手触りを感じられなくもない。二年前に電車事故で父親を亡くした女子高生の霧間早希は、いっけんダメージからは回復したように、あかるく見えながらも、しかし、とある呪縛に囚われていたままであった。その彼女が、隣のクラスの吉川葵に急接近した真意とは、いったい何か。ふとしたきっかけをもって、高円寺は、そうしたことの顛末に関わることとなる。「赤い記憶編」で主人公の高円寺は、これまでとは違い、ほとんど事件に介入することはなく、あくまでも傍観者に近しい立場に置かれている。作中で、メインに描かれているのは、少女たちの罪と赦しをめぐる劇だといえるであろう。しかし、完結したこの時点から振り返ってみれば、『刑事が一匹…』というマンガ自体が、そういう、同性二者間の絆によって、当事者たちが悩み、苦しみ、罰を授け、受ける話ではなかったか、という気もするし、なるほど、そう考えれば、大筋はうまくまとめられている。ただし、いち狂言回し以上の役割を高円寺に見ていた場合、彼の行く末などに関しては、いささか消化不良の嫌いがある。
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