ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2006年12月09日
 化物語(下)

 モテモテじゃないか、阿良々木くん。蛇に憑かれた少女千石撫子の不運をめぐる「なでこスネイク」と、シリーズ当初から仄めかされていた羽川翼の事件が明かされる「つばさキャット」を収めた、西尾維新『化物語(バケモノガタリ)』の下巻である。上巻分は、あらかじめ『メフィスト』誌上に掲載されるという経緯をとったが、ここでの二篇は、「講談社BOX」のこのヴァージョンが初出となる。そうして五つのエピソードで完結しているわけだけれども、総括してみると、登場人物たちによる一対一の会話劇で読ませる、といった趣が、強い。怪異に関わってしまった女の子が、〈僕〉こと阿良々木暦の助力を得ることで助かる、すべてがそのようなプロットで共通しており、要は、語り手である〈僕〉と相対する女の子の性格や年齢、境遇などの差異が、そのまま、やり取りのヴァリエーションとなって現れる、結果、内容そのものに異なった顛末が与えられる。「あとがき」の言葉を正直に受けとれば、〈この『化物語』は百パーセント趣味で書かれた小説〉であり、〈元々ぽっかり空いたスケジュールを埋めるために手遊びで書いた小説〉だということもあるから、〈どのキャラにしても、彼らが会話をしている様子は書いていて本当に楽し〉かったらしいが、いやいや、読み手にしても、登場人物たちが生き生きと話を交わす様子は、とても愉快で、十分に楽しめるレベルに仕上がっているように思われるし、あるいは、気負いのない状態で編まれた作品であるからこそ、作者の逃れようもない指向性をうかがわせる、とも考えられるのは、これまでしつこく繰り返しているとおり、僕が、西尾作品のどこにどう重きを置いているかというと、もしも唯一無二のものがあるとしたら、それはいったいどのようにして代替不可能だと判断されるのか、といった部分にあるからで、そのような印象は、たとえば「つばさキャット」において、ヒロインから重大な悩みを打ち明けられるさいに〈僕〉が〈僕だから誘ったわけでもない、誰でも良かった。そのとき、そこにいたのが僕だっただけだ〉と感じるほかにも、複数の箇所で確認できる。自分ではない他の人間がそこに居合わせることもありえた可能性は、当然のように、その立場を引き受けるのが自分ではなければならない絶対性を、保証しない。裏を返せば、引き受けなくともよい、ということである。関わらなくてもよい。しかし、それでは物語は成り立っていかない。だからというわけではないが、〈僕〉は、ほぼ無条件で、献身といえるほどに、ヒロインたちの抱える怪異へと、積極的にコミットしていく。そういう資質の持ち主であるがゆえに、いや、より正確にいうと、その誰にでもやさしいことが重要なのでない、彼の働きかけが、べつの誰かからは得られない(得られなかった)と、特定の他者には感じられるがゆえに、そのことに対する反応が起こる、つまり作中の言葉を借りれば〈人は、一人で勝手に助かるだけ――〉にとどまらない結論が導かれたときに、それは、彼の固有性を肯定するものとなっている。

・『化物語(上)』収録の内容に関する文章
 「するがモンキー」について→こちら
 「まよいマイマイ」について→こちら
 「ひたぎクラブ」について→こちら

・その他西尾維新に関する文章
 『零崎軋識の人間ノック』について→こちら
 「栄光の仕様」について→こちら
 『xxxHOLiC アナザーホリック ランドルト環エアロゾル』について→こちら
 『DEATH NOTE アナザーノート ロサンゼルスBB連続殺人事件』について→こちら
 「ある果実」について→こちら
 『ネコソギラジカル(下)青色サヴァンと戯言使い』について→こちら
 『ネコソギラジカル (中) 赤き征裁VS.橙なる種』について→こちら
 『ネコソギラジカル (上) 十三階段』について→こちら
 『トリプルプレイ助悪郎――最終回「終落」』について→こちら
 『トリプルプレイ助悪郎――第五回「五々」』について→こちら
 『トリプルプレイ助悪郎――第四回「四季」』について→こちら
 『トリプルプレイ助悪郎――第三回「第三」』について→こちら
 『トリプルプレイ助悪郎――第二回「二人」』について→こちら
 『トリプルプレイ助悪郎――第一回「唯一」』について→こちら
 『ニンギョウがニンギョウ』について→こちら
 「コドモは悪くないククロサ」について→こちら
 「タマシイの住むコドモ」について→こちら
 「ニンギョウのタマシイ」について→こちら
 『新本格魔法少女りすか 2』について→こちら
 『新本格魔法少女りすか』について→こちら

 『ザレゴトディクショナル 戯言シリーズ用語辞典』について→こちら
 『総特集 西尾維新』ユリイカ9月臨時増刊号について→こちら
posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(06年)
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