鷺沢萠の小説を読むのは本当にひさしぶりで、なぜ読もうと思ったかといえば、それは彼女が亡くなったからというわけではなくて、僕が目にする、この作品に対する評判がすべてどうにも良いからなのだった。まあ正確には、その評判の良さもどうせ人の死を担保にしたぐらいのものでしかないんだ、という捻くれた動機からなのであった。けれども、じっさいに読んでみると、なるほど、これはなかなかのものである。『渡辺毅のウェルカム・ホーム』と『児島律子のウェルカム・ホーム』の2編が収められていて、どちらもやさしくあたたかい読後感をくれる。
というか、ああ、やっぱりこの人文章うまいわ。ものすごく生真面目に、言葉を、次々と用意しているのが、読んですぐにわかる。
ここに書かれていることは、ものすごく簡単にいえば、80年代バブルによって価値観がいったんリセットされた日本、そのあとの時代で、旧式の感性が新しい世代の感性によって、生きることの意味を改めて与えられる、というものである。家族の新しい像が結ばれているというよりは、共同体のなかにある普遍的な箇所、それはかつては見えない場所に隠れていたものが、べつの角度からの視線によって露になる、そういうことなのだと思う。もうちょっと言えば、カタチのないものでさえもじつはカタチがある、という提言に近いのではないだろうか。その言い口が、すこしの古臭さを感じさせるほどにピュアなので、ストレートに泣けるタイプの小説として成り立っている。
ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2004年07月12日
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