
愉快だ。ぎゃはは、というんではなくて、くすくす、と笑える短編集であると思う。要するに、大爆笑ではなくて、どっかに共感するものがあるのだ。その共感はどっからやってくるか。たぶん、本来であるならば見えないもの、不可視であるものが見えてしまう、それはつまり、ホラー映画を成り立たせるマテリアルでもあるのだが、といったことに由来している。じっさいに、ここに収められた作品のほとんどが、視線の問題を扱っている。当人には捉えられているのに、他の人には理解されない。というのは、もう妄想と紙一重である。そこらへんのギャップがユーモアへと転化されている。あるいは「卒業シャーク」などは、もちろん怪現象がそういったことの現れなのであるけれども、それよりも友情の、その裏側に隠蔽された憎悪自身は、ほんとうは実存ではないにもかかわらず、そこではダイナマイトとしてハッキリと具現していることなども、ある意味では、同様の問題といえる。まあ、そういうことはどうでもいいのかもしれない。個人的には、登場人物たちの台詞回しがジャストである。〈ちくしょう!! 自分の被害妄想に我ながらイライラしてきぜ!!〉とか。