ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2012年07月07日
 湾岸ミッドナイト C1ランナー(11) (ヤンマガKCスペシャル)

 確かこの11巻に収められているエピソードだったか。『ヤングマガジン』に掲載されたとき、とある作中人物の〈実は才能って最初からはっきりあるモノじゃなく / 何かのキッカケで目覚めるのよ / そのキッカケでいちばんが実は模倣なのよ〉〈実はミスチルにもマザーはいるはず / でもわからない / 完全に一人歩きしてるから / つまりそれが才能よ〉なる発言に対し、さりげなく岩見吉朗がTwitterで苦言を呈していた()けれど、それはマンガ原作者の久部緑郎というより、やはり元『ロッキング・オン』の岩見吉朗のものであるように思われたのだった。が、ともあれ、楠みちはるの『湾岸ミッドナイト C1ランナー』は、たぶん世間的にはそう認知されているに違いないものの、必ずしも走り屋のロマンを追っているのではない。

 もちろん、公道でのレーシングを抜きにしては語れないマンガだろう。しかし、本編である『湾岸ミッドナイト』の終盤で、意外とそうした面は後景化していき、自動車産業と密な日本の戦後史(精神史)を作者なりに編み直そうとする部分が大きくなっていたのであって、リニューアルされた「C1ランナー」では、もしフリーターの若者が各種のプロフェッショナルにマネジメントを学んだら(プロのライターになれるか)、とでもすべきストーリーとともに、WEB時代において老舗の自動車雑誌を存続させようとする人々の愛着と奮闘が描かれていた。そこで各種のプロフェッショナルたちが、自動車産業、出版産業、サービス産業と、立場や言葉を変えながら持論として述べているのは、要するに日本の現代史(精神史)にほかならない。先に引用した模倣と才能(ミスチルとオリジナリティ)の発言も、おそらくはそれを象徴するものとなっている。

 主人公の一人であるノブが編集部のアルバイトと多くの出会いを経験することで成長していくさま。『湾岸ミッドナイト』の終盤に登場した荻島信二が優等生であることのジレンマを通じながら自動車評論家としてのポジションを確立していくさま。これらの二点が「C1ランナー」の本筋を動力させているキーだと言える。だが、ここで注目したいのは9巻から物語に加わってきた有栖ガレージのオーナー、有栖高彦の存在である。タカと呼ばれるその中年男性はある種のカリスマであって、ノブや荻島に新たなインスピレーションを与える役割を持たされているのだけれど、それは同時に『シャコタン☆ブギ』や初期の『湾岸ミッドナイト』のサブ・テーマでもあった不良少年がモラトリアムの外でいかに社会と関わっていくか、そして『TOKYOブローカー』や後期の『湾岸ミッドナイト』に組み込まれていたどのような理念によってダンディズムは支えられるのか、等々の、すなわち楠のエッセンスを極めて具体的に凝縮しているのだ。

 実際、作者自身もタカという作中人物を得た(導入した)ことで以降の方向性を掴んだのだろう。『湾岸ミッドナイト』のスタイルがそもそもそうであったように、当初はゲストでしかなかったはずの彼にカメラのズームを合わせていくのだし、出番を経る毎にその容貌が若返ってグッド・ルッキンになっていく。つまり、肩入れの度合いがあからさまになっていくわけだ。タカの半生、それはちょうどオールドスクールなフィクションにおける不良少年の躓きと立身出世を思わせる。バイクの事故で友人を亡くし、挫折を経、自分で自分を救うべく、新天地へ渡ったのち、成功を収める。こうした変遷が、しかし現在進行形のメロドラマではなく、何世代も下の若者に向けた伝承であったり教訓であったり、おっさんのセンチメンタルをぎりぎり免れるか免れないかのラインで、この国の現代史(精神史)とのミックスになっているところに「C1ランナー」の魅力はある。

 10巻のラストで自動車評論家の荒井がノブの進退をめぐって〈…これは前にタカにも言ったんですが / 生きるってコトは「人に借りをつくってる」わけですよね / いいコトも悪いコトも借りをつくっている / いいコトはもらっといて悪いコトは知らない / そーゆうわけにはいかないんですよ〉と言っているこれが、タカの、死んだ友人のオルタナティヴとしての半生、つまり〈「忘れる」もしくは「認める」 / キツいことを振り切るには結局この二つしかないな…と〉〈あの時の負い目はすべて仕事に変えて認めてきた / そして仕事に変えた以上それはもう負い目じゃないと割り切ったわけ〉だという挿話と絡まり、先に引用した模倣と才能の議論にまで影響を及ぼしているのは、正に作品の醍醐味だと言える。

 1巻について→こちら
 『湾岸MIDNIGHT』40巻について→こちら
posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(0) | マンガ(2012)
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