ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2006年11月14日
 絶対、最強の恋のうた

 『100回泣くこと』が、ちょっと、いやけっこう気に入らなかったので、それを書いた作家に対しても、あまりいい感情を持てなくなってしまったというのもあり、今後は中村航のものを積極的に読んでいくことはないか、と思っていたのだが、以前にとあるアンソロジーに収められていて、とてもチャーミングだと感じられた短篇「突き抜けろ」が物語の一部分に採用されているというわけで、この『絶対、最強の恋のうた』を手にとった次第なのだけれど、五つに分かれているパートのうちで、とくに印象に残ったのは、まあ正直なところ他はほとんど印象に残らなかったにしても、やはりその「その二、突き抜けろ」と、「その五、富士に至れ」の、つまり命令口調的な題名の付せられたふたつのエピソードだったのだが、それというのはたぶん、そうした題名自体に、それぞれで語り手をつとめる大野と坂本から見られた、木戸さんの位置が象徴されているとしたら、僕という読み手はというと、彼ら三者の、鮮やか、とはすこしばかり言い難いが、しかし楽しげな交わりに惹かれるところがあるからなんじゃねえかしら。そこで捉まえられている、モラトリアムというか、モラトリアムのどこか途中というか、モラトリアムの終わりのはじまるきわは、じっさい誰にでもありえそうな、と、そういうふうに形容するのが似合う気のする風景なのだけれども、いうまでもなく、じっさいにありうることと、じっさいにありえそうなこととは、似て非なるものであり、前者と後者のあいだにある差異、距離こそが、とりたてて突飛ではない話のなかに、なにかファンタジックな彩りを、あたかも憧憬をうかがわせるかのような筆遣いで、加えている。

 『100回泣くこと』について→こちら
posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(06年)
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