ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2012年02月09日
 疾風伝説 特攻の拓 外伝 〜Early Day’s〜(2) (ヤンマガKCスペシャル)

 ああ、〈“死の商人”‥‥ それが“天羽一族の事業”さ‥‥ “父さん(ダッド)”はそれを憎んで合衆国(ステイツ)へ渡った‥‥ そして あの日死んだ‥‥ “母さん(マアム)”と一緒に‥‥ オレが望んだとでも? “悪魔”に赦しを請えよ? ラファエル‥‥〉と。これである。このダイアローグでありながらモノローグにも思われるポエジーこそが『疾風伝説 特攻の拓』の、あるいは佐木飛朗斗の真骨頂であろう。

 果たして現代に『特攻の拓』の前日譚=『外伝 〜Early Day's〜』が発表されることはどれぐらいの意義を持っているのか。2巻に入ってもなお議論の余地は残る。個人的には佐木が東直輝と組んだ性格上は続編にあたる『外天の夏』や『爆音伝説 カブラギ』のほうにアクチュアリティを見たいのだったが、しかし物語を解くというより詩歌を詠ずるような気持ちで作品に接するのであれば、コミックスのオビに記された「音速の累計70万部突破!!」という売り上げもわからないではない。かつてと同等の心象が、ある種のポエジーを通じて、いや確かに伝わってくる。それだけは絶対に損なわれてはいないと実感されるのである。

 いくつもの事件をパラレルに展開するのが、『外伝 〜Early Day's〜』に限らず、佐木が原作の特徴であるけれど、本来なら同じ時間帯を共有しているはずのそれらが、全体の整合性をほとんど無視し、各々のドラマを肥大させていった結果、一日がちっとも終わらないのに、まるで数日が過ぎ去ったかのような錯覚を引き起こしてしまう。無論、これを指して、タイム・テーブルの調整が狂っていると揶揄することはできる。だが、本当にそうなのだろうか。おそらくはその、歪んだ時空の在り方によってでしか、佐木の思想=宇宙は証明されえないと考えるべきなのではないか。以上のことが是であるとき、浮かび上がるのは、もはや物語の問題ではなく、詩歌の問題にほかならない。ええっ、さすがにそれは過言でしょう、と眉をひそめてもよいよ。

 ただし、物語の問題であれ、詩歌の問題であれ、本質のレベルでは、争いのない世界なんてないというテーマと純粋な祈りは必ずや争いを止められるというテーマとが常にせめぎ合っている点を忘れてはいけない。

 そう、一例を挙げるなら、本作における主人公の天羽“セロニアス”時貞が恋人である芹沢優理との会話のなかで漏らしたとある楽曲への感想は、間違いなく、詩歌としての儚さ=ポエジーを宿しているし、佐木の編み出す物語が潜在的に抱えた矛盾を覗かせる。つまりは〈“新世界より”‥‥ ドヴォルザークの“祈り”だよ‥‥ この“楽曲”は“宇宙”を祈ってるんだ‥ きっと‥‥ ウジェーヌ・イザイのようには‥‥ “呪”わない‥‥〉という憧憬が、あるいは黄昏が述べられる一方で、屈指のギタリストでもある天羽ですらそれを弾きこなすことは〈“無理”‥ だよ “優理”‥‥ コイツはどーにもならないのさ? “不可能”だよ 今のオレの“力”では‥‥〉という諦念が、あるいは留保が告げられているのだ。

 潜在的に抱えた矛盾そのものを真理として走らせるあまり、無尽蔵に膨張し続け、混乱を手招き、あやうく破綻しかねないのが、佐木の宇宙であり、魅力である。これを巧みに制御し、物語ならではの強度を機能させているところに、所十三の重みを見られたい。原作がどのような形式で手渡されるのかは不明だが、『特攻の拓』以降、他のマンガ家たちが佐木飛朗斗と組んで描いてきた作品、とりわけ不良少年の物語には、あきらかに所のイディオムを踏まえているものが少なくない。

 また『週刊文春』2011年10月27日号の「マンガホニャララ」で『特攻の拓』の復刊を取り上げたブルボン小林は「拓も不良たちも頑丈だ。頑丈さは(この作品に限らず)漫画表現の、根源的な快楽に拘わっている。(略)派手に殴られて血をみせることと、うやむやに(速攻で)回復することの両方が、漫画だけのリアリティだし、本作はその特性に満ちている。世界の新陳代謝が良いと感じられるのだ」と書いているけれど、その健全さはもちろん、所十三の技法に負われている。

 しかしながら、とりわけ頑丈な身体をもってしても半村誠と天羽時貞の死は決して避けられない。悲劇的な運命を辿るのは周知のとおり。本編のファンからすれば、この2巻で、後に親交を結ぶこととなる緋咲薫と天羽が、殺伐とした表情で初顔合わせしているのを感慨深く思われるだろう。天羽の赤い瞳は、他人に対して、敵意だけを剥き出しにしている。病んだ魂が救われることをまだ信じられてはいない。

 1巻について→こちら

・その他佐木飛朗斗に関する文章
 『爆音伝説カブラギ』(漫画・東直輝)
  2巻について→こちら
  1巻について→こちら
 『妖変ニーベルングの指環』1巻(漫画・東直輝)について→こちら
 『外天の夏』(漫画・東直輝)
  5巻について→こちら
  4巻について→こちら
  3巻について→こちら
  2巻について→こちら
  1巻について→こちら
 『爆麗音』(漫画・山田秋太郎)
  7巻について→こちら
  6巻について→こちら
  5巻について→こちら
  4巻について→こちら
  3巻について→こちら  
  1巻・2巻について→こちら
 『パッサカリア[Op.7]』について→こちら
 『[R-16]』(漫画・桑原真也)12巻について→こちら

・その他所十三に関する文章
 『AL』4巻について→こちら
 『D-ZOIC』
  6巻について→こちら
  3巻について→こちら
  2巻について→こちら 
 『白亜紀恐竜奇譚 竜の国のユタ』
  8巻について→こちら
  7巻について→こちら
  5巻について→こちら
  4巻について→こちら
  1巻について→こちら
posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(0) | マンガ(2012)
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