ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2006年10月03日
 ひとかげ

 小説の前置きに作者のエクスキューズが付せられることをあまりスマートだとは思わないのだけれども、まず「はじめに」のなかで、よしもとばななは〈私の若い時に書いた小説だけが好きな人たちというのもいて、彼らはかたくなに私の今の小説を否定したりします〉といっていて、僕などはけっこうそれに近しいタイプの読み手であるぶんだけ、この、よしもとが若いとき、つまり吉本ばななであったときに書かれた短篇「とかげ」のリメイクである「ひとかげ」に対しては、わりと慎重な面持ちでページをめくったわけだが、そうして読後感を簡単に述べるのであれば、たしかに書き直されたことで異なる感触が持たされているのはわかる、にしても、そうすることで良くなったとか悪くなったとかはないな、というものだった。要するに、べつの作品として成立させられているのであり、だから「とかげ」と「ひとかげ」のどちらが好みか、というのは、結局のところ、読み手の指向性に拠るしかないのであって、やはり僕はというと「とかげ」のほうを高く評価してしまうわけだが、それは、すくなくともこの話に関しては、登場人物と作者がべったりとくっついて、不可分になっているような、そういう書かれ方は、あまり合っていないと感じられるからだ。フィクションであるかぎり、登場人物が、作者の分身であったとしても、作者そのものである必要はない。両者の境界が、「ひとかげ」においては、曖昧になってしまっている。地の文における、よしもと(吉本)には数少ない男性による語りが、作者自身の、他の小説やエッセイなどでも用いられている言葉と、ほぼ同型のまま記述されている(というふうに読める)ためだ。そういったことを指して文体と呼ぶかどうかはともかく、そのような、作者の〈心の叫び〉を否定するつもりはないし、それを求める読み手を批判する気もない、とはいえ、リメイクの必要は、つよく感じられなかった。もちろん「とかげ」の〈私は29歳男〉といった自己紹介も、いま読むとあんまりではあるが、そのへんも含め、さしあたり相対的な好みの問題に還元した結果、そう思う。

・その他よしもとばななの作品についての文章
 『イルカ』について→こちら
 『みずうみ』について→こちら
 『王国 その3 ひみつの花園』について→こちら
 『なんくるない』について→こちら
 『High and dry(はつ恋)』について→こちら
 『海のふた』について→こちら
posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(1) | 読書(06年)
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よしもとばなな
Excerpt: よしもとばななよしもと ばなな(1964年7月24日 - )は日本人の小説家。東京都生まれ。日本大学芸術学部文芸学科卒。本名は吉本真秀子(よしもと まほこ)。作品は..
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