ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2006年09月29日
 1巻のときもいった気がするけれども、『駅弁ひとり旅』とはいっても、基本的な旅路は、ふたり連れで行われる。妻の厚意で、趣味の鉄道と駅弁を満喫する旅に出た主人公の大介が、その旅先でたまたま知り合った人間と、しばらく道行きをともにする、というのが、だいたいの趣向であり、前巻では九州を女性カメラマンと巡ったが、この2巻では、お遍路巡りをしている女性と四国で出会い、その後、その女性の甥である小学生と山陰に入ってゆくことになるのだが、そうした道中に、女性たちとのラヴ・ロマンスが発生したり、はたまたドラマチックなヤマがあるわけでもなく、さまざまな土地土地の、列車に乗って、駅弁を食すといった行程だけが、単純に繰り返される。たったそれだけのことがおもしろいのかどうかというと、おもしろい、のである。では、そのおもしろさがどこからやってくるのか、それを説明するのが難しいのだけれど、たんに鉄道と駅弁のトリビアルな知識に支えられているのではないようにも、思う。たとえば、四国をいっしょに行く美希という女性は〈弁護士をめざしてるんですが〉〈お恥ずかしい話もう三回も司法試験に落ちちゃって……もう26になっちゃうし後がないんです〉という事情を持っており、彼女の旅は、いわゆる自分探しの意味合いが含まれている。また、山陰をともにする洋史少年は、2年前に亡くなった鉄道好きの父親と乗る予定だった山口線のSLを目指す、作中の言葉を借りれば〈お父さんと約束したあの場所へ〉という夢を叶えようとするのである。ここで重要なのは、そうした心理のレベルにおける彼女や彼の再生劇すら、けっして大げさに表現されてはいない、ということだ。さらりと流したぶんには、気が変わった程度の、心変わりにしか読めないし、じっさいに作中で割かれている描写も、そのぐらい、抑えられたものであろう。しかし結局のところ、旅なんていうのは、そんなものなのかもしれない。空気や水が変わることで、思いがけぬ光景を目にすることで、人の気持ちに、それまでにはなかった余裕が出来たりもする。この巻で、僕がいちばん好きな場面は、三段式スイッチバックで機関車が急勾配を登っていくのを、大介と洋史少年が〈ガンバレ ガンバレ!〉と応援するところである。それまで白けていた洋史と、大介の気分が〈ガンバレ ガンバレ!〉という掛け声によりシンクロしている、たったそれだけのことが、ずいぶんと楽しそうに見える。まあ見ず知らずのおっさんに、自分の息子を預け、旅させるというのは、いまこの時代にはなかなかありえそうもないが、そういった部分も含め、殺伐とした現実を忘れさせてくれるフィクションの旅を、束の間、味わうのだった。

 1巻について→こちら


posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(0) | マンガ(06年)
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

この記事へのトラックバック
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。