ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2006年09月21日
 どちらでもいい

 『悪童日記』で知られるアゴタ・クリストフによる短編集、というか一冊の輪郭はショート・ショートをまとめたものに近しい、というか非常に短い散文が、わりと無造作に並べられている印象なのは、「訳者あとがき」のなかで堀茂樹がいっているように、これが〈ノートや書き付けの中に埋もれていた習作のたぐいを編集者が発掘し、一冊に収録した拾遺集〉だからだろう。全部で25の作品が収められているが、どれも、具体的なエピソードを語るというのではなくて、むしろ抽象的な心の動きが漠としたイメージを描き出している、といった感じだ。ある種の不条理劇としても読める。が、しかし、そうした条理の歪さは、世界の側からの個人に対する働きかけというよりは、個人の側から世界を眺める視線によって生じている。あるいは、個人への無関心こそが世界の実像なのであり、人びとが持ちうる想像力などは、現実の逆しまな反映でしかないのかもしれない。自分は、彼らが自分のことを知っていると思うけれども、じつは彼らは自分のことを知らないし、もちろん自分も彼らのことを知らない、それを妄想と呼ぶのであれば、そういう妄想の、それを孤独と呼ぶのであれば、そういう孤独の、原形であるかのようなスケッチが、この『どちらでもいい』には、ゴツゴツとした肌触りのまま並んでおり、すべてとは言わないが、いくつかはおそらく、読み手の胸中に、共感となって、現れるはずだ。堀によれば、その年齢と体調のため〈この先、A・クリストフの新作長篇小説が出る可能性は、残念ながらきわめて少ないと考えざるを得ない〉らしい、それが事実だとすれば、すこしばかり寂しいお知らせではある。


posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(06年)
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