ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2011年10月25日
 ナンバーガール (講談社コミックスフレンド B)

 桜井まちこのことをすぐれたマンガ家だと信じてやまない。が、正直なところ、傑出した長編を残しているとは見なし難い。やはりこの人の本領は短編にあるのだと思う。表題の『ナンバーガール』は、女子学生たちのフレッシュな恋愛を題材にした読み切り形式のシリーズである。若気の至りをうかがわせるようなエネルギーに溢れ、頬を赤らめるほどにピュアでいて、空回りする気持ちが、いや確かに目覚ましく目覚ましい明るさ、かけがえのない輝きに値していく様子を、コミカルであると同時にハッピー・エンドが信じられるテンションのなかに織り込んでいる。ストーリーにこれといったひねりはない。むしろ「ど」を冠したいぐらいにストレートな内容なのだけれど、桜井ならではの引いたカメラに遠景の収められたカットや、心の動きが目元と口元を通じながらくっきりと浮かんでくる表情のアップに、ああ、と膝を打つエモーションが投影されているのだった。元気いっぱいな笑顔が正しくイノセントな魅力となっているヒロインたちの姿は、初期の頃の作者を彷彿とさせる。

 しかし最も特筆すべきなのは、それらとは全く別のベクトルで描かれているにもかかわらず、おそらくはタイミングの都合でここに入れられた「夏の霧」だろう。すでに初出(『別冊フレンド増刊 別フレ2010』7月号)の段階、そして他作家とのオムニバス集である『泣きたいほど…純愛。』へ収録された際に目を通していたのだったが、うんうん、繰り返し何度読んでも大好きである、これ。とにもかくにもせつない。端的に述べるのであれば、誠実さに負けることの憂い、ペーソスが、痛々しいまでに繊細な登場人物の仕草に凝縮されている。無論、誠実さとは本来肯定されるべきものであって、それに負けるというのが妙なレトリックであるのは重々承知しているつもりなのだった。しかるに、そう喩えるよりほかない土壇場が「夏の霧」には描き出されているのだ。筋書きとしては、ずっと好きだったクラスメイトを恋人が留守の隙に奪っちゃおう、程度の小さな裏切りを追っているにすぎない。道義上問題があるのは間違いなくヒロインの方だよね、と思う。だがそれが恋愛のルールにおいては必ずしも悪ではなくなっていき、さらにはこれ以上の関係は望めそうもないという断念を連れてくる。

 主人公であるリカのアプローチに三上が乗らなかったのは、恋人の香奈に対してばかりではなく、リカに対しても誠実であろうとした結果にほかならない。そしてリカはその誠実さに誠実さを返すなら、失恋のかたちで応えるしかなかったのである。どんな夜も明けてしまう。朝もやのなかに寂しさが詰まったラスト・シーンは、この世界にはいくら手を伸ばそうが、あるいは今にも届きそうなのに、決して自分のものにはならないものがあることを、身につまされるような実感として響かせる。

・その他桜井まちこに関する文章
 『trip(トリップ)』について→こちら
 『17[じゅうなな]』
  5巻について→こちら
  4巻について→こちら
  2巻について→こちら
  1巻について→こちら
 『minima!』
  2巻について→こちら
  1巻について→こちら
 『H-ラブトーク-』について→こちら
 『H-エイチ-』
  6巻について→こちら
  3巻について→こちら
posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(0) | マンガ(2011)
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