ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2011年10月14日
 water cube(1) (アース・スターコミックス)

 河一權が韓国のポータルサイトで発表した作品が、中村珍のアレンジを経、中澤泉汰によってリメイクされた、ということでいいのかな。残念ながらオリジナルのヴァージョンは未見なのだったが、1巻を読むかぎり、この『water cube(ウォーター・キューブ)』は、屈折した青春の風景がコメディにも似たテンションで描かれていて、そこになかなかの魅力を覚える。〈違う 僕は キミなんかどうでもいい キミを好きだったんじゃなくて 僕は キミの水着が好きだったんだ キミなんか 好きじゃない… キミなんか〉

 グッドなルックスで勉強にも長け、正しく優等生だった水希大祐にとって、女子の水着こそが至上のものであった。中学を卒業し、高校に入った彼は校内にプールがあるのを知って、思わず携帯電話のカメラを構えてしまう。はたしてその行為を担任教師の黒田に見咎められたことから、まさかの事態に巻き込まれる。性別を偽らされ、女子水球部の設立メンバーに加えられてしまうのだ。ばれたなら、ただの変態である。それに比べれば、泳げないことですら大したハンデじゃないだろう。一癖二癖ありそうな面々に囲まれ、正体を隠そうとする彼は、しかし元水泳部の藍野に心惹かれていくようだった。

 女装がある種のフックを兼ね、ボーイ・ミーツ・ガールのトリガーとなっている点は、今日的なパターンの一つであって、必ずしもユニークなアイディアではないと思う。けれども、羽目を外した設定が、現時点では何がどう転ぶのか直ちには判断しきれないストーリーの面白みに繋がっている。それこそ主人公の水希は、藍野とのディスコミュニケーションから恋愛を育んでもいいのだし、可愛らしい女子たちを前にハーレムよろしくへらへらしててもいい。あるいは彼女らと熱心に水球に打ち込んだっていいのであって、そのことを通じながら性差にこだわらぬ友情のドラマを繰り広げたっていいのである。コミカルな展開を含め、たとえば以上のような予断の許されるなかで、悩ましいティーンエイジャーの自意識が、こうと定まるべき場所を手探りしていく姿に、おそらく『water cube』ならではの温度が備わっている。

 主人公と学校の教頭である父親との関係は、裏の重要なテーマだろう。保護者の過剰なプレッシャーと所在のなさに預けられた寂しさが、少年の胸を塞いでしまう。イメージとしてはステレオタイプではあるものの、それは切実さを欠いているわけではない。ひょんなことから調子の狂った学園生活は、狭かったはずの世界が開かれうる可能性を喩えているのであって、出会いは人を変えられる。アニメ的なデザインで少女マンガの仕草を拾ってきたかのような中澤の画は、思春期の曇った気分、ナイーヴさに鮮明なきらめき、ぱあっと輝くダイナミズムを注ぎ込んでいる。

 掲載誌の『月刊コミックアース・スター』は、創刊が3月の震災とぶつかったせいかどうかは知らないが、あまり話題に上っているのを目にしない。まあ、既存作品の応用みたいなものも少なくはないし、雑誌である以上は良い部分と悪い部分もあるにはあるのだけれど、個人的にはこの『water cube』と『TRACE』(原作・NASTY CAT、漫画・雨松)に好きだといえるだけの期待をかけているのだった。
posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(0) | マンガ(2011)
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

この記事へのトラックバック