ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2011年07月02日
 その役、あて書き

 大鶴義丹、十四年ぶりの小説作品というインフォメーションにいったいどれだけの価値があるのかは知らないが、じつはこの『その役、あて書き』に関しては、『en-taxi』に連載されているのを欠かさずに読んでいたのだった。話の筋だけを取り出せば、どうということもない。B級ホラーの映画監督が、業界に倦んだ生活を送るなかで、売れていない若手女優と関係を持ち、やがて魂の再生を果たしていく(いやいや、まあね)このような段取りになるだろう。おそらく、私小説とはいかないまでも、作者自身の経験をベースにした部分もあると思わせる。じゃあそこがとりわけ魅力的だったのかといえば、しかしそうではない。ノヴェルにおける設定とは、おおよその場合、リアリティであるようなパートを担っているのだけれど、それを通じ、プライドとキャリアのあいだで板挟みになった中年男性の憂鬱が、いささかメロドラマティックなきらいはあるものの、ある種の確かさを持っているあたりに、しみじみしてしまう。すなわち、設定のどうしようもなさが、作品の説得力へと転化されているのだ。妻子に離縁され、これから名声を手に入れるにはトウの立った主人公が、一抹の理想にしがみつく惨めさ。自らに課した潔癖さなど、単なる言い訳に過ぎず、表現者の苦悩といったところで、それすらもステレオタイプの域を出ない。この、あまりに身も蓋もない現実が、たとえかろうじてであろうと、何かしらの物語に支えられるためには、相応の、きわめて安っぽいディテールが必要であった。恋人同士が、たった二人きりで映画を撮るべく、機材を用意し、沖縄に渡り、スピリチュアルなイベントをこなしていく終盤に、もちろん、まったくのこと感動しない。むしろ、あらかじめの計画が頓挫していくその、なし崩し的なプロセスに、生々しいフラストレーションを見られたい。吊しのロマンティシズムにすがるよりほかなく、決してハードボイルドには及べない。残念な中年男性の像がくっきりと浮かび上がる。
posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(2011)
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