ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2011年06月10日
 ナンバデッドエンド 13

 どんな運命も変えられる。絶対に変わる。誰にだって変えることができる。たとえそれが寝言だとしても夢を見たっていい。ささやかな夢さえ見られず、叶えることを諦めてしまったまま、クソのような世界をクズのように生きるしかなかったら、とても寂しいではないか。つらすぎるではないか。小沢としおの『ナンバデッドエンド』13巻である。

 もしも全ての望みを断たれることを絶望というのであれば、正しくそのためにぐれ、家族や友人たちすら拒否し、アウトローの道にずぶずぶはまっていく難破剛だったが、ヤクザである梶原の誘いに耳を傾けるも一線を踏み越えてしまうことは躊躇していた。藤田深雪の説得がなかったなら、ヤクザの片棒を担いでいてかもしれない。さ迷い、良心にとどまった剛は、非合法な仕事を押しつけられた仲間を救うべく、梶原と対決することになるのだった。以上が、前巻のあらすじであって、この巻では、再びそこから明るい方へ明るい方へ、歩みを得ていこうとする剛の姿が描かれる。無論、杞憂がまったく消え去ったわけではないのだけれど、ようやく取り戻された笑みに重ね合わせられているのは、間違いなく希望だと思う。

 高校をドロップアウトせざるをえなかった主人公に、梶原や不良仲間であるタカシが突きつけてくる問いは、熾烈であり、本質的なものであっただけに、よくぞそれを受けて立ったという感動が、物語の帰結としては、ある。12巻で、すがるものを失くしていた剛にタカシは〈難破さん…アンタ…どこに向かってる? これから どーするつもりなんスか? シャバ校追い出されてわかったハズだぜ オレら 向こうじゃ相手にもされねぇ…難破さん…表で勝てねぇならよ 裏で勝ってやろうよ オレらバカにしたヤツら 高ぇとこから見下ろしてやろうぜ〉と訴えかける。そしてそれはさらに、梶原の、次のような言葉に変換され、激しく剛を揺さぶるのである。〈いーこと教えてやるよ 難破…人間にはよ…運命つーのかな…しかるべき場所ってモンがあってよ オメーの生きる場所は こっちだぜ…生きる場所間違えると つれぇだけだ…〉

 生まれや育ち(遺伝や環境)のせいで悪に走るよりほかない人間がいる。ゾライズム(フランス自然主義)の変奏ともいえるこのテーマは、近年のヤンキー・マンガにおいて根幹に関わるものであり、また『ナンバMG5』及び『ナンバデッドエンド』にとっても、ギャグとシリアスの双方のパートを分け隔てることなく、実に抜き差しならないものであった。はからずも剛の退学は、運命は変わらない、変えられない、そのせつなさを実証してしまったのであって、絶望の重みもそこによっていたのだ。

 作者はしかし、それに対しての反論を試み、しっかりと成功させているので、フィクションならではの絵空事でありながら、ちゃんと地に足の着いた感動が備わっている。このとき、剛の兄である難破猛が、恋人のカズミを妊娠させたため、求職に励まなければならない、というワキのエピソードは、主人公の変節に直接絡んでこないにもかかわらず、重要な意味合いを持ちえてくる。不良少年として生きてきた人間が社会的な立場と責任をどう引き受けるか。学校の外側を舞台に、すなわち大人のテリトリーであるようなそこで、本来であればアウトサイドに転んでもおかしくはないはずの存在が、当然と定められた成り行きに逆行していく。この奮闘が、主人公の憂鬱と二重写しになり、作品自体の説得力を強く高めているのである。

 ああ、そして家族や友人たちと和解を果たした剛に、猛がこうかける言葉を聞き、おんおん泣こう。〈剛 もう誰もジャマしねーからよ やりてぇこと思いっきりやっていいんだぜ (略) 進路決める紙に美大って書いた時のオメーは 今のオレと同じ気持ちだったのかなって思ってよ…オレ オメーがさっきオレに言ってくれたみてぇに “やりたいこと見つかってよかったな おめでとう”って…なんであん時 オメーに言ってやれなかったのかな… “おめでとう”って言うかわりに…オメーをウソつき呼ばわりしてブン殴っちまった…ダッセー兄貴だぜ〉って、いいね、兄弟っていいね、家族っていいね。

 このマンガのホーム・ドラマとしても抜群にすぐれているところが、二人のやりとりにはよく出ているのだし、しばしば感情は大切なことを隠してしまうが、しばしば感情は大切なものを教えてくれる、そのような真理が、涙のなかに花開いている。

 と、まじめな話はここまでだ。何はともあれ、『ナンバデッドエンド』のヒロインはてっきり伍代だとばかり思っていたのだったが(男じゃんね、とか言わない)、ここにきて藤田さんの活躍が目覚ましく、見事にその座を奪還したな、うんうん、であろう。いや、疎遠になっていた剛からの電話を受け取り、はにかんでいるみたいな素振りを見せる伍代はさすがにキュートであるけれど、あれだけ殺伐としていた展開を経、間もなくラブコメがかった空気に持って行けたのは、やはり藤田さんという大きな発明のおかげなのだ。剛の後輩にあたる弥生ぐらいの個性では、物語を旋回させるのに必要な馬力が足りなかった。

 しかして、まさかの熱愛ムードに入った剛と藤田さんの浮かれっぷりときたら。恋は魔法というけれど、その魔法の、最高にポジティヴな面が惜しみなく達成されており、にやにやせざるをえない。幸福は一人で抱えるのではない。誰かと分かち合えてはじめて掛け替えのない価値を示す。信じられるかな。孤独な運命はいつしか絶対に変えられる。

 11巻について→こちら
 8巻について→こちら
 7巻について→こちら
 6巻について→こちら
 3巻について→こちら
 2巻について→こちら
 1巻について→こちら

 『ナンバMG5』
  18巻について→こちら
  17巻について→こちら 
  16巻について→こちら
  15巻について→こちら
  14巻について→こちら
  12巻について→こちら
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  4巻について→こちら
  3巻について→こちら
  1巻について→こちら
  1話目について→こちら
posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(0) | マンガ(2011)
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